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LESSONⅡ:第16話

「そうか。誰かとデートでもしているのかと思ったから」 「たしかに、俺も思ったぞ、それは」と理人も涼太の発言に乗っかり口を挟んだ。  彼の手のひらは涼太の膝の上に乗せられ、ボディタッチを繰り返している。 「ナギサ、俺たちはボーイズラブのコンセプトとして活動しているから、プライベートを週刊誌に撮られることだけは気をつけろよ。ましてや女性とデートしてる場面なんて撮られたら、何を書かれるか分かったもんじゃないからな」  ボーイズラブという言葉にクールな涼太が片方の眉を上げて反応を示す。理人はその反応を楽しむかのように言葉を続けた。 「それだけじゃないぞ、ナギサ。車の運転が得意だとしても、ぐれぐれも事故には気を付けてくれよな。俺たちの大事なナギサの身になにかあってからでは遅いから」  もらったドーナツを口に入れて話を逸らせないか思慮する。  超有名なプロデューサーである雅紀と仮恋人の契約を始めたなんてふたりに言えるはずがない。相手があまりにも有名すぎて、そんなことがバレたら涼太は狂ったように心配するだろう。彼に負担をかけたくないから雅紀との「契約」について、いまは打ち明けることを避けた。 「俺もドーナツもらうぞ」  ナギサが抱えていたドーナツの袋から理人はひとつ取り出してほうばった。一口食べると二重の目尻を下げて美味しさを顔じゅうで表現した。 「おい、理人。口にドーナツの砂糖がついているぞ」  理人の口元を涼太は指先で拭う。  その仕草があまりにも艶っぽくて、一部始終見ていたナギサは雅紀にキスされたあとに指で唇をいじられていたことを思い出してしまった。  理人と涼太は恋人だから、キスやそれ以上の行為をしているはずだ。目の前にいるふたりを恋人として想像してしまう自分に後ろめたさを感じたナギサは赤面してしまう。  ふたりにばれないようにナギサはふたつめのドーナツを食べるふりをして顔を隠した。 「もう家でやってよ、なんか恥ずかしい……」  そう言いながらも仕事もプライベートも信頼し合い、さらに恋人という関係を完璧に保っているふたりはナギサにとって憧れの存在だ。  仮の恋人とはいえ、雅紀と恋愛関係になったいまは特に聞きたいことがたくさんある。 「理人さんと涼太さんは恋人同士だからデートとかするの? あと……えっと……」  キスという単語を思い浮かべただけで言葉に詰まってしまい、不自然な態度が見透かされそうで冷や汗が出てしまう。 「ん? ナギサは俺とプライベートでも付き合いたいのか?」  理人は片方の口角を上げて意地の悪い表情をしながらナギサの茶色くて猫っ毛な髪を撫でた。 「べ、別にそういう意味じゃないし!」  理人に触れられるのは嫌ではないけれど、目の前に座っている涼太の目がすこしも笑っていないことくらい分かる。やっぱり仕事上とはいえ、理人とナギサが恋仲というユニット設定は涼太にとっては嫌なのだろう。  もし雅紀が知らない人とキスしていたら。  もし他に恋人がいたら。  もし仮恋人の契約を複数の人と締結していたら──。  想像だけで嫌だと思わず叫んでしまいそうになる喉元を押さえながら、頭を何度も横に振り続けた。 「分かってるよ、ナギサ。お客さんに喜んでもらうためなら、理人と大いに仲良くしてやってくれ。ナギサがそれを嫌だと思っていてもな。俺は仕事ならふたりが舞台上で恋人を演じても、許す」  涼太にしては珍しく低い声で無機質に告げた。まるで録音された機械音のアナウンスのように。 「許すなよ、涼太ぁ。そこは嫌って言ってよ」

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