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LESSONⅡ:第20話
「ナギサぁ……よかった。会いたかった……」
部屋に上がる前からナギサは玄関で雅紀にしばらく抱き締められた。
とてもきつく、解くことのできない強さで。
「ちょ、ちょっと、どうしたの。い、痛いよ」
抱き締められて胸が思いっきり跳ね上がったことにナギサは驚き、雅紀の腕から逃れようと身体を捩る。
「ごめん。だけど身体が言うこと聞かないんだ」
雅紀はナギサに抵抗されてもひるむことなく抱き締め続けた。そのまま玄関の壁に押し付けられたナギサは唇を奪われる。
「んっ……い、息が、で、できない」
この前、雅紀と初めて交わしたキスのように柔らかい唇ではなかった。
切羽詰まった荒々しい口付けだ。
(……どうして、この前のキスと違うの? こんなに痛くなかったのに)
ナギサは唇も胸も痛んで仕方ない。
こんなキスはするだけ虚しくなる。母と無言で食べる冷えた夕食とまるで同じだ。
鉄格子がナギサの心を守るように降りようとしていたが、相反して雅紀の息は上がっている。
熱い吐息が漏れて、そのまま彼の唇は首筋に移動した。耳の裏側から首の付け根、そして鎖骨にかけて唇と舌先が何往復もなぞる──。
「んぁっ……、あっ、や、やめてよぉ……、ま、雅紀さぁん」
気持ちを無視し続けた強引な彼の口づけなんて欲しくない。
しかし不本意ながらも舌が描く道筋に身体は反応してしまい、自分でも聞いたことのない甲高い声が漏れる。
「あぁ……ナギサ、もしかして感じてくれているの?」
違うと頭を左右に振ったけれど受け入れてもらえるわけがない。
「嘘ついたらダメ。これは気持ちいいときに出る声だから。ナギサは感じたらこんなに高音域を出すんだな」
すれ違った男性の正体と疑いの気持ち。
欲望だけを貪りあう身体。
感情と性欲の境界線があやふやになってゆく。
脳は雅紀に触れて欲しいと訴えている。
しかし心は他の誰かを抱いているかもしれない雅紀を拒絶しようとしている──。
「ちが、違うのぉ……。ダメっ、やめて……!」
雅紀にはほかに恋人がいるかもしれないというのに、このままキスを続けて気持ち良さだけ得られればいい、と心の奥から願う自分を認めたくなかった。
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