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LESSONⅢ:第23話

 雅紀の部屋で気を失うように眠ってしまってから数日が過ぎた。  あの日、目を覚ますとすでに雅紀は仕事に出かけたらしく部屋には誰もいなかった。  すぐ来て欲しい、と言われたほんとうの理由が分からないままだ。  ナギサは仕事のスケジュールが立て込んでおり、あの日から雅紀のマンションへ行けていない。それにライブの本番も近いから、マネージャーの涼太からは身体のケアを優先しろと顔を合わせるたびに言われている。  打合せをするために今日も事務所に来ているナギサはスマホを片手に、近くのカフェでテイクアウトしたチョコレートマフィンをかじった。  事務所のコーヒーメーカーで淹れた熱いホットコーヒーにポーションタイプのミルクとシュガーをそれぞれふたつ入れ、混ざり合うのを見つめた。  机に置いたスマホの画面は通知がひとつも表示されていない。つまり雅紀からの新着メッセージはないということだ。  会いたくて仕方ない。  もしかしたら会っていない時間はエレベーターホールですれ違ったあの男性と一緒かもしれない。多忙な雅紀がそんな時間があるとは思えないけれど、いちど感じた不安は簡単には拭えなかった。  彼とのやりとりが残されたメッセージを見返すのに飽きると、ネット上に転がっている雅紀のアーティスト写真を見つめた。  決してメディアでは笑顔を見せない冷酷な表情。  ナギサが知ってる柔らかく頬を緩ませて見つめてくれる表情にはほど遠かった。  二回目のキスはどちらかというと冷酷非情の雅紀に近かった。ナギサがして欲しいキスは、この冷たい表情でするキスではない。 (ボクだけをまっすぐ見てくれて、笑って欲しい……)  優しいキスと荒々しいキスが交互に思い出される。  唇が疼き、指で再現しようと自分でなぞった。  キスをしたくて淋しい。  そんな気持ちは初めてだった。  キスをしたいという欲望と自分以外に合鍵を渡していたかもしれない疑う気持ちが順番に頭の中に浮かんで胸が苦しくなる。  満たされない悶々とした心は身体の疼きを呼んでしまう。忙しい毎日で身体のケアを優先しなければならないのに、胸に空洞ができたように虚無感が襲い、寝付けない日も多かった。  雅紀と過ごすようになってから、ふだんの自分を保てなくなってしまったのだ。

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