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LESSONⅢ:第24話
病気なのではないかと思ったナギサはそういう現象についてインターネットで調べた。
すぐにAIは答えをくれる。
どうやらそれは「恋」というらしい。
AIですら恋を知っていた。まるで【偏愛音感】が示した答えを読み込んで学習していたかのように。
ドラマやマンガで見かける恋はこんなに苦しそうに見えなかった。
現実を突きつけられたナギサは心のアップダウンに半端ない疲労を感じて狼狽する。
溜息と間違えられそうな大きな深呼吸をしようと息を吸い込んだが、喉の奥が詰まってしまい腹底まで息を吸い込むことができなかった。
(あれ……息も吸えない)
身体のすべてで雅紀を求めてしまっていた。
彼にすこしばかり会っていないだけで、自分自身のことが疎かになってしまうくらい何も手に着かない。ほんとうに病気を患ったかのようだ。
ナギサは打合せ中の理人と涼太に目をやった。
彼らはまるで家のリビングかのようにソファーで身体を寄せ合っている。仕事をしているのは間違いないのに、端から見たら決してそうは見えない関係性だ。
まるで恋人たちが次の旅行先について、じゃれ合いながら喋っているような雰囲気だった。そのふたりを見ていると羨ましい。ナギサも腕がぴったりくっつく雅紀の部屋のソファーで寄り添って過ごしたかった。
雅紀に会いたい気持ちを燻らせながら彼らから目を逸らして天井を見上げる。
恋というのは、こんなにもまいにち相手と会いたくなってしまうのだろうか。
会えない時間が長すぎる。いくら仕事が忙しいとはいえ、ひとりきりの部屋に帰ると途端に時計が逆回りでもしているかのように時の経過が遅い。その間はご飯を食べることも部屋を片付けることも、どうでもよくなってしまう。
一通も連絡を寄越せないくらい雅紀は忙しいのだろうか。
会いたいと思っているのは自分だけなのだろうか。
(読んでもくれないトークルームなんて、みじめで消しちゃいたいよ……!)
ナギサがふたりに気づかれないように溜息をつくと事務所の電話が鳴り響く。
理人に身を寄せて打合せしていた涼太はすばやくスリーコールも鳴らないうちに電話を取った。
「お電話ありがとうございます。株式会社R&Rでございます」
しばらく相手の話を丁寧な相槌をしながら聞いたあと、涼太は「どういうことでしょうか?」と鋭い声を出した。一瞬のうちに涼太の声のトーンが怪訝な雰囲気に変わった瞬間、理人と顔を見合わせた。
「もしもし……もしもし? あの、詳しい内容を……うわっ、切られた」
相手の電話が途切れたのか涼太は理人に鋭い目線を寄越す。理人は彼の考えていることが分かるのか、小さく頷いてから、ふたりとも同時にナギサへ視線を合わせた。
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