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LESSONⅢ:第25話

「……なに? ボクのことだったの? いまの電話は」 「あぁ、そうだ」  冷静沈着が代名詞の涼太が珍しく頬を紅潮させている。いまの電話は彼の怒りのスイッチを入れてしまったようだ。 「涼太、大丈夫か? ナギサのことだというのは察したが、涼太がそんなにも慌てているなんて珍しいな」  理人が涼太の赤く染まった頬に手の甲を当てて、顔を覗き込む。涼太はその手を避けてから、ナギサを睨んだ。 「ナギサ、宮國雅紀と個人的に会ったりしているのか?」  とつぜん涼太から雅紀の名前が飛び出したことに驚きを隠せなかった。きっと瞳孔は開いていたはずだ。 「その反応を見ると、会っているんだな?」  勘が鋭い涼太を騙せるはずがなかった。  彼らによけいな心配させたくなくて秘密にしていたのに、電話一本でバレてしまうなんて思ってもみなかった。ふたりで会うだけなら仕事上あり得ることだろう。だが雅紀とは「恋人」の仮契約を結ぶような関係だ。やましい気持ちを隠し切れない。 「……うん、会ってる」 「そうか、分かった……うーん、嘘をつかなかったのは褒める」  慌てた様子から安堵したように落ち着いたトーンで喋る涼太に髪をぐしゃぐしゃと撫でられた。  理人は「あぁ、そうか」と納得したように膝を叩いた。 「むかしラジオにゲスト出演したから接点はあるな。もしかして、あのときに連絡先でも渡されたか?」  表舞台に出ていないときの理人は美形という素材を生かさず、髭は伸びっぱなしで髪もぼさぼさだ。 「まぁ、そんな感じ」  理人の予想はおおむね合っていた。  実際はただ連絡先を渡されただけではなく、雅紀がナギサをプロデュースしたいという仕事の誘いだったことは理人の面子を保つために伏せた。 「なるほど。宮國雅紀と接点があることは理解した。ここからが本題だけど、さっきのコールは男性の声で匿名の入電だったんだ。ナギサが宮國雅紀のマンションに出入りしている。ふたりは付き合ってるかもしれない、って」 「はぁ?」と理人は目を丸くして驚いた。  どうして誰かにバレたのかナギサには分からず俯いた。  音楽業界で働く人間同士であり、さらに同性だ。もしマンションを出入りしている姿を目撃したとしても、すぐに「付き合う」という発想にはまず至らないはずだ。

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