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LESSONⅢ:第31話
翌日、ナギサが目を覚ますとベッドの中まで涼太と理人が話している声が聞こえた。
今日はオフだからゆっくり寝ていようかと思ったけれど、ふたりはオフの日でも規則正しい生活スタイルで暮らしているらしい。
仕方なくベッドからのそのそと降りて、目をこすりながらリビングへ行くとパンの焼ける香りがふんわりと漂っていた。
「おはよ、理人さん、涼太さん」
「おう、早いな」
理人はリビングのソファーでテレビをつけてくつろいでいた。どうやら朝ごはんを作っているのは涼太のようだ。
「ナギサ、朝ごはんは食べる派でよかったよな?」
「あ、うん。っていうか、人が作ってくれた朝ごはんを食べることが久しぶりかも」
母は料理をしなかったので、いつも買い置きのパンを適当にかじる朝食だった。
一般的な家庭の朝食を知ったのは高校の寮生活のときだ。それで言うならば自分だけのために朝ごはんを作ってくれたのは涼太が初めてかもしれない。
「それは光栄だ」
ダイニングテーブルに朝食を並べて冷静に涼太は言った。昨夜の優しい表情はいつもの銀縁眼鏡で跡形もなく消えている。
「わぁ、写真で見たことある朝ごはんらしいメニューだね」
こんがりと焼けたトースト、ふんわりと綺麗な黄色のスクランブルエッグ、小ぶりのウインナーにグリーンサラダ、熟れたトマトがカットされて盛り付けられている。
ナギサはを輝かせて席に着いた。
「だろ? 涼太は料理が得意なんだよ。外で食べるより、はるかに美味いから」
自分で作ってもないのに自慢しながら理人も続いて着席する。
涼太は「褒めちぎってもなんもサービスしねぇぞ」と照れ隠しに冗談めかして言った。
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