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LESSONⅢ:第32話

 昨晩、涼太が理人のことが分からないときがある、と本音を漏らしていたけれど、端から見ていたって理人が涼太を溺愛していることくらい分かる。  「好き」という気持ちは相手を縛りたくなるのだろうか。  たしかに仕事が忙しいと言った雅紀にナギサは「嫉妬」していると涼太に言われたばかりだ。  仕事より自分を見て欲しい、そんな気持ちが淋しさを生みだすのかもしれない。  それはすこしも自分のことに目をかけてくれなかった母への想いにも通じるような気がした。 「んー、朝からこんなに美味しいごはんが食べられるのは、最高だね……」  誰かと食べる朝食がこんなにも満たされるなんて知らなかった。  父や母、そして漣音とこんなふうに食卓を囲んでみたかった。  もし雅紀と一緒に暮らしたら、こんな毎日がやってくるのだろうか。  ナギサの脳内にはうまく想像が浮かばなかった。それは思い返しても雅紀と食事した記憶がないからだ。  会いたい。  もっと雅紀と一緒に過ごしたい。  食事して、笑い合って、抱き合って眠りにつきたい。  メッセージだけでは雅紀の心情が読み取れなくて辛かった。  会えないのは自業自得だけれど、せめて声だけでいいから聞きたかった。 「ねぇ、雅紀さんと会うのはダメだけど、声は聞いてもいいの?」 「……そうだよな。家に通うくらいの仲だったら、会えなくて寂しいか。ちょっと妬けるな。俺のナギサなのに」  聞こえなかったふりをしているのか理人の聞き捨てならないセリフを涼太は無視をしている。その態度を理人は微笑みながら頬杖をついて眺めている。  理人とはユニットのコンセプトとして恋人風を装っているうえに、涼太の気持ちを知ったナギサはなんだか申し訳なさで胸がいっぱいになる。 「この家のなかで電話するなら構わない」  冷酷にもほどがあるトーンで涼太は言い放つと、理人の顔をいちども見ずに食べ終わった食器を片づけ始めた。 「ありがと、涼太さん」  ごちそうさま、と言って、ふたりの雰囲気をこれ以上悪くさせないようにナギサは部屋に戻った。  ドアを閉めると理人が「ねぇ、涼太、怒ってる?」と尋ねる声が聞こえてくる。  これが涼太が言っていた、理人の意味不明な行動かもしれない、とナギサは首を傾げた。  もし雅紀が知らない他人を「俺の〇〇」だと言ったらどう感じるだろうか。  例えば、あのエレベーターホールですれ違った男性を「俺の恋人」だと言ったとしたら──。  胸の奥が悲鳴を上げそうなくらい苦しい。  自分は仮の恋人だから、本家には勝てない。  いったい本当の恋人になるには、どうしたらいいのだろうか。

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