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LESSONⅢ:第33話

「嫌だよ……、他の人とも恋人だなんて……」    ひとりごとを言いながらスマホを取り出して、ナギサは着信履歴から雅紀の番号をタップする。 (ボク、雅紀さんの何なの? 仮契約ってどういうことなの?)  ワンコールさえ長く感じる。三度鳴ったところで受話器の向こうから「もしもし」と聞き慣れない声がした。 「え? ま、雅紀さん? では……ないよね?」  雅紀の声は多幸感に包まれるテノールボイスだ。  バターとはちみつをたっぷり塗った焼き立てのトーストをかじったときのような満たされる声。  しかし電話から聞こえたのは甘ったるい高めの声域だった。  どこかで聞いたことあるような声の男性が電話に出たので胸のざわめきが収まらない。 「ねぇ、ナギサでしょ?」  顔こそ見えないが、その男性は勝ち誇ったような声で喋り続ける。 「僕のこと、誰だか分かる?」  分かるわけがないと叫びそうになった。  こんな朝っぱらから雅紀のスマホを使うことができる距離にいる人物なのだ。その事実に思考は支配されてうまく働かない。  ナギサが質問に答えられずに黙っていると電話の向こう側から雅紀の声が微かに聞こえた。 「おい、誰と……」という雅紀の声が聞き取れた瞬間、電話は一方的に切れた。 「えっ、だ、誰だったの……。雅紀さんと一緒にいるってことだよね?」  頭のなかが真っ白になってしまい、どうしたらいいか分からない。  もう一度かけ直すべきなのか、ぐずぐずしているうちにスマホの画面は暗転した。すぐに雅紀から折り返しが来るかと思ったが、それすらなかった。 「どうした、ナギサ」  独り言が大きかったのか、理人と涼太が部屋のドアを開けて、様子を伺っていた。 「宮國雅紀とラブ……コール、できてないようだな」  ふざけた様子で尋ねようとした理人はきっと顔面蒼白になっているナギサの表情を見て、話せていないことを察して言葉を引っ込めた。

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