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LESSONⅢ:第34話

「……ち、違う、お、男の人が……出たの」  ショックで唇が震えて声がうまく出せない。  ふたりに聞こえるか聞こえないかの音量で呟いたが、理人は涼太と目を合わせてため息をついた。どうやら声はふたりに届いていたようだ。 「宮國雅紀は、やっぱり男を……」  理人がそう言いかけると涼太は首を振って「いまは言う必要ない」と口を封じた。 「ナギサ、ちょっとのあいだ連絡を断ったほうがいいかもな。彼の周辺にナギサとの関係を探っている人間がいるようだし」  涼太の落ち着いた声色を聞いたナギサは微かに首を動かして頷いた。 「理人、俺はちょっと宮國雅紀のこと探ってみようと思う。噂だけでは埒が明かないから」 「あぁ。ナギサのことを真剣に考えているのか、いままでどおり遊びなのか……」 「違う、雅紀さんは、ちゃんとボクのこと好きだから!」  好きだったら、遊びなんかしない、と恋を知らないナギサは勝手に思い込んでいた。雅紀の過去に何があったかはよく知らない。彼がプロデュースする女性との噂があとを絶たないのも知っている。  それでも【偏愛音感】は示している。雅紀とナギサは両想いだということを。 「どうして、言い切れる?」  理人は床にへたり込んで座っているナギサを抱き寄せた。涼太はその姿を見ないようにしているのか目を伏せて考え込んでいた。 「聞こえるんだ、ボク」  理人の胸のなかで震えながら告げる。 「雅紀さんに対して【偏愛音感】が発動しているの」 「ナギサは絶対音感だけではなくて、【偏愛音感】も持っているのか?」  涼太は驚きながらも納得したような顔つきをして理人に抱き締められているナギサに問うた。 「うん、雅紀さんと出会ってから、その能力について気づいたの」  理人も驚いたのか抱き寄せていた身体を離して涼太と目を合わせる。。 「【偏愛音感】を持っているということは、理人と一緒だな。羨ましいな、俺も絶対音感じゃなくて【偏愛音感】が欲しかった」 「えっ? 理人さんも持っているの?」  理人は「涼太、歌って?」と言ったが、涼太は嫌だと断った。 「なんでだよ、涼太。俺が【偏愛音感】持っていることをナギサに証明したかったのに」 「恥ずかしいだろ? 俺がいま考えてることがお前に伝わったら」  急に顔を赤らめた涼太にナギサは「そうだね、どこまで聞こえちゃうか分からないから」と言った。 「夜、覚えておけよ、涼太」 「ちょっと、ナギサのいる前で!」  涼太はさらに顔を紅潮させて、ふだんの冷静さを保てずにいる。  これが恋人なのか、とナギサは羨望の眼差しでふたりを交互に見比べた。

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