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LESSONⅢ:第38話
見てはいけないシーンを見てしまったあとのように、ふらふらしながら真っ暗なリビングのソファーにナギサは寝転がった。
暗さに目が慣れてくると、テーブルの上には何か置いてあることに気づいた。
整理整頓が大好きな涼太にしては珍しいとナギサは思いながら、テレビ台の横にある間接照明の灯りをつけた。
「えっ、三年前の週刊誌? どうしてここに?」
その雑誌は日本で一、二を争う情報週刊誌だった。
ページをいくつか捲ると政治の話題から芸能の記事へ変わる。
『人気急上昇バンドのギタリスト宮國雅紀、熱愛発覚! お相手は同じバンドメンバーのボーカリスト、碧海奏か?』
その見出しが目に入った瞬間、ナギサはページを捲る手を止めた。
雅紀と知り合ったのは彼がバンドを辞めてプロデューサー兼ソロギタリストとして活動してからだ。
彼がどんなバンド時代を送ってきたか何も知らない。
週刊誌の帝王だと言われたのもプロデュース業を始めてからだと思い込んでいた。彼の名前でネットを調べても所属していたバントのことは詳しい内容まで書かれていなかった。だからバンド時代に何があったのかわからないままだった。
彼を敵に回せないマスコミが足並み揃えて沈黙しているのかもしれない。女性との記事は雅紀の事務所側の売上戦略である可能性が高いのでは、とナギサは勘ぐる。
その記事には腰くらいまで髪を伸ばした雅紀の写真が載っている。
その姿にも驚いたが、この碧海奏という人物にナギサ目を奪われた。
「この人……、雅紀さんのマンションですれ違った人だ」
そのページの写真にはバンドのアーティスト写真のほかに、雅紀と碧海奏がラブホテルに入る瞬間を撮った写真が掲載されていた。アーティスト写真の碧海奏の微かな笑顔から八重歯がちいさく覗いている。
その表情は、まるでいまの自分のようだった。
「……碧海奏って、れ、漣音なの?」
ほんとうに小さいころバラバラになった双子の兄なのだろうか。
幼かったナギサと漣音は言葉もままならないうちから、よく歌っていたのをぼんやりと覚えているが、さすがに大きくなった姿にまで確証は持てない。
母に死んだと聞かされていた兄は、金髪に染めて耳の軟骨や耳たぶに無数のピアスをつけて写真に収まっている。
それはなんだか痛々しく見えて、まるで自らを虐めているような印象すらあった。
つまり、双子の兄、三波漣音は碧海奏というステージネームで雅紀とバンドで一緒だった。
さらにふたりはラブホテルに行くような仲だったということだ。
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