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LESSONⅢ:第39話

「この前、マンションですれ違ったということは……いまでも関係が続いているってことだよね?」  漣音はナギサがアーティストとして活動していることは分かっているのかもしれない。  雅紀ともラジオ番組で共演しているから、接点があることを知っていたのだろう。  それを承知の上で事務所に電話を架けたり、雅紀のスマホを勝手に触ったりしているのだろうか。それよりもナギサは雅紀に対して疑問の念がずっと頭から離れない。 「ねぇ、雅紀さん。ボクが漣音に似ているから、好きなの──?」  週刊誌のなかにいる雅紀に向かってナギサは問い質した。  泣きたくないのに涙は零れ、何に泣いているのか分からないまま雑誌は濡れた。 「雅紀さんにとって、ボクは身代わりなの? 先にボクが雅紀さんと出会っていたら、ボクだけを好きになってくれた?」  声はだんだんとひとりごとのレベルではないくらい大きくなった。理人と涼太を起こさないようにしたかった気持ちはどこかへ行ってしまったようだ。 「……泣いたら目が腫れるぞ」  背後から遠慮がちに声を掛けられたはナギサは身を震わせて驚く。振り返るとそこにはボクサーパンツだけ身に着けた涼太が立っていた。 「シャワー浴びようと思ったら、誰かリビングでぶつぶつ言っているから驚くじゃねぇか」  ソファーから立ち上がり、ナギサは思わず涼太さんに抱き着いた。目の先に見えたのは小さなアザが散らばっている胸元だ。 「ったく。理人がちゃんと片付けないから、ナギサによけいな心配かけちまったな」 「……いいよ。いつかは知ることになったんだろうから」 「知らなかったんだな。宮國雅紀がむかしバンドを組んでいて、自分のスキャンダルで解散させてしまったことを……」  ナギサは涼太の胸に顔を埋めたまま頷いた。 「まぁバンドじたいはコアなファンが一定数ついてる程度の人気だったんだ。彼はバンド解散後のプロデューサーになってからが本職というか。週刊誌に女性問題が頻繁に書かれるようになったのは……つまり女性と噂されるようになったのは、彼の事務所の意向だと俺は思っている」 「……プロデュース業のためってことでしょ?」  ナギサは顔を上げて、涼太と目を合わせた。 「それもあるとは思う。だけどバンドを解散した理由が、同性同士で関係を持っていることがマイナスイメージになるからという噂が広まったんだよ。表向きはバンドの方向性の違いというよくある理由だったが、本当の理由を隠すために現在は女性との関係をワザと撮らせているのかもしれない。いまでこそ俺たちもコンセプトにしているボーイズラブも、少し前はまだ世間一般に馴染んでなかったからな。これから上を目指すバンドにとってはタブーだったのかも」  涼太にゆっくりと髪を撫でおろされて、その手のひらが温かく、涙腺はふたたび緩んでしまった。

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