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LESSONⅣ:第46話

〈ボクの歌、聞こえてる?〉  どこかにいるはずの雅紀に【偏愛音感】で聞き取って欲しくて、一曲目から全客席をうっとりさせる歌声で聞かせるナギサの脳内に雅紀の声は響いてこなかった。彼がライブ会場に来ていない可能性が脳裏をかすめる。 (あせるな、まだライブは始まったばかりだし……)  会場を盛り上げるため、最初の何曲かはヒットナンバーが続く。  客席の熱気が高まると理人はシンセサイザーから離れ、ショルダーキーボードを担いで、ナギサのスタンドマイクの近くへやってきた。彼と恋人同士を装って絡み合うパフォーマンスで客席に火が付いたように盛り上がる。  歓声に気持ち良くなるナギサはマイクスタンドから離れて理人と背中合わせになって歌う。互いの汗を感じたのち、曲がサビへ入ると向き合って目線をぶつけた。  会場からは溜息と悲鳴が入り混じった声援が飛び交う。それはナギサの歌声がかき消されるくらいのボリュームだ。客席からはナギサだけではなく理人の名前を呼ぶファンも増えた。最初は客席に興味がなかった理人もファンサービスをすることで次に繋がることを学習すると、適確にファンの心を掴んで煽ることを忘れなかった。 「さすが理人さん。手を挙げただけなのに、ファンが失神しそうな声上げてるよ?」  サポートメンバーのギターソロの合間にナギサは感心したように顔を理人へ寄せる。 「客へ媚びずにファンを確実に虜にするには手を挙げることがいちばん有効なんだよ」  その身体を接近させるふたりの姿はファンを狂喜乱舞させた。繰り返されるサビを客席がひとつになって大合唱すると心地よいユニゾンにナギサは鳥肌が立った。 〈ナギサ?〉  脳内へ誰かが語りかける声が紛れていることにナギサは気がつき、顔をわずかにしかめた。

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