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LESSONⅤ:第53話
「うわっ……! だ。誰、こんな時間に」
快楽に導かれながら恥ずかしい場所をいじろうとしていた自分に呆れながら、スマホの画面を覗いた。
「えっ、雅紀さん?」
それは雅紀さんからの着信だった。ナギサは思わず脚を閉じて硬くなったものを片手で隠しながら電話に出た。
「もしもし」
「あぁ、ナギサだ。やっと声が聞けた」
受話器の向こう側にいるのはやはり雅紀だった。脳内ではなく耳で聞く声があまりにも久しぶりでナギサは言葉に詰まってしまう。
「えっと……れ、漣音……違う、あ、碧海奏が部屋にいるんじゃないの?」
「やっぱりそう思われても仕方ないよな」
ふたりが一緒の部屋にいるということが現実だと突き付けられて指先から震えが起きる。
「だって雅紀さんに電話しても、違う人が出るし、それに……今日だって聞こえたんだ。【偏愛音感】で」
「……アイツはむかしのバンド仲間なんだ」
焦りを隠すようなトーンで雅紀は声まで震えているナギサの言葉を遮る。
「それに……アイツが言うまでナギサと双子の兄弟だなんて知らなかったんだ」
「そんなこと……信じられないよ。漣音とバンドが一緒で、スキャンダル起こしてさ。ホテル行くってことはさ、好きだったんだよね、漣音のこと……それなのにボクと恋人契約するなんて……まるでボクは漣音の身代わりみたいだよ……」
高ぶった気持ちが抑えきれずに心のなかでくすぶっていた聞きたいことが勝手に口から飛び出してしまう。
「違う、それは絶対に違うんだ。ナギサを知ったときは兄弟だとは思いもしなかった。アイツは家族なんていないと言い続けていた。アイツは高校に入学してすぐに児童養護施設を飛び出したらしいんだ。学校にも通わず繁華街を彷徨っていたときに、俺がよくライブさせてもらっていた馴染みのライブハウスの店長が見るに見かねて雇った。そこで出会ったんだよ」
漣音が施設に預けられていたことを初めて知った。父親は離婚してすぐに漣音を育てることから逃げ出したということだ。
「誰かに頼ったり、優しくされたりすることに慣れてないのか、最初はぶっきらぼうな態度だった。近づく人間すべてにナイフを向けそうなくらい、いつも苛立っていた。なかなか住む場所が決まらなくて、ライブハウスの楽屋で寝泊りしていたから、あまりにも見兼ねて俺の部屋でしばらく一緒に暮らしたんだ」
ぷつりと雅紀の言葉が切れる。生活を共にしただけなのか、そこに雅紀の感情はあったのか気になって仕方がない。
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