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LESSONⅥ:第61話

 ふたりが乗ったタクシーを車で追いかける。  漣音とちゃんと話したい。彼はそう思っていないということだろうか。  いままで離れていたせいもあるかもしれない。彼にとっては自分なんていてもいなくても関係ない存在だとしても、やっぱりたったひとりの兄弟だ。 「漣音が会いたくなくたっていい。ボクが会いたいから、会いに行くんだ」  タクシーを追いかけて空港についたナギサは搭乗口へ駆け足で向かった。  自分が空港へ来ていることに気づいて欲しくてナギサは息が切れることを覚悟して、小さい音量で歌いながら走った。 〈漣音、まだちゃんと会ってないのに、どこかへ帰ってしまうなんて、ひどくない?〉  彼の脳内で【偏愛音感】が発動してくれることを願う。  漣音もナギサがその能力を持っていることを分かっているからライブ会場で歌いながら想いを飛ばしたのだろう。 〈それとも漣音はボクに会いたくないのかな。それは雅紀さんをいまでも好きだから?〉  空港ロビーは混雑しており、思うように前へ進めない。  漣音と雅紀を探しながら歌うことは体力だけが消耗するばかり。  行先すら分からないのに、どの搭乗口など検討がつくはずもない。  飛行機の出発時間を待つ人々であふれかえるロビーで、ナギサは鼻歌で必死に【偏愛音感】の能力を酷使した。 〈漣音、どこにいる? お願い、歌ってよ──〉  空港内に響くアナウンス。  旅立つ人たちの喧騒。  ナギサは両耳を手で覆い、立ち尽くして脳内の声に耳を澄ます。 「もう、ナギサはうるさいよ、ずっと僕のことを【偏愛音感】で呼ぶんだから」  声は脳内で聞こえず、塞いだ耳の外側で聞こえたようだった。 「ナギサ、聞こえてるの」と肩を叩かれ、振り向く。  するとそこには髪型や着こなしこそ違うが、自分とそっくりな人物が立っていた。その後方で雅紀がわずかに困った表情を作って見守っている。 「れ、漣音?」 「幽霊じゃないからね。僕はずっと生きていたんだから」  目の前にいる兄は金髪のショートヘアに、両耳には無数のピアスの穴が開いていた。  ダメージ加工のブルージーンズに細い体型をカバーするかのような赤いチェックのオーバーシャツを羽織っている。

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