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LESSONⅥ:第63話
漣音はナギサを鋭い眼差しで睨んだ。
「ナギサはさ、どうしてマサキさんと出会ったの? いつだって僕が手に入れられなかったものを手にしてるのはどうして?」
屈辱で漣音の尖った眼光は涙に変わりそうだった。
ナギサは彼に羨ましがられるようなことはなにひとつ手にしていない。それに雅紀とも一緒に暮しているわけでも正式な恋人でもないというのに。
「漣音にそんな風に思わせてしまって……ごめん」
震えている漣音の手をそっと握ろうとした瞬間、ナギサの頬に強烈な痛みが走った。
「い、痛っ! どうして叩くの?」
鏡を見たらきっと赤い手形がついているのではないかと思うくらい、漣音に思いっきり平手打ちをされた。
「謝るってどういうこと? まるで僕が負けたみたいで腹が立つ」
その光景をすぐ近くで見ていた雅紀が漣音の肩を掴んだ。
「おい、叩くことないだろ?」
「どうせマサキさんはナギサの味方をするんでしょ?」
「そういうことを言うな。俺は仲良くして欲しいだけだ。たったひとりの兄弟なんだから。世界中探しても血の繋がった兄弟はひとりしかいないんだぞ」
漣音は唇を噛んで必死に零れそうな涙を堪えている。
「漣音、ボクも想像しているような人並みの生活は送れてないんだよ。母はボクの存在を無視していたし。夜の仕事をしていて、ほとんど家にいなかった。帰ってきたかと思えば、知らない男を部屋に連れ込んだりさ。そのたびに息を潜めなければならなかったよ。自分の存在はなかったほうがよかったんだってずっと思ってたんだ。それに漣音のことを尋ねても死んだって言い張って会いに行かせないようにされていたんだ」
ナギサと漣音の肩は雅紀の両腕で抱えられていた。
彼は静かに涙を流しているようで微かな嗚咽にナギサも、そして我慢していた漣音もとうとう涙を零してしまった。
「ボクは歌うことで、居場所を見つけた。その場所で雅紀さんと出会ったんだ」
「僕は……マサキさんに救ってもらったのに、自分から壊しちゃったね」
背の高い雅紀にナギサと漣音は彼の胸に顔を埋めて、泣き顔を隠す。
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