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LESSONⅦ:第68話

「海が輝いて見えるなぁ」  ギアチェンジしているナギサの左手に雅紀の手のひらが重なった。  彼の体温にシフトレバーを握る手はじっとりと汗ばむ。もっと雅紀と、さらに深く、触れ合うことを期待してしまう汗だ。 「ナギサ、明日は休みか?」 「え? うん、ライブ終わったばっかりだから、今週末にラジオの収録があるだけだよ」  期待が声を震わせる。  明日、休みだとしたら、雅紀はなにをしてくれるのだろうか。 「そうか。奇遇なことに俺も明日休みなんだ」  握られた手のひらの強さが増して、ハンドルへ手を戻せない状態になっている。幸い、まっすぐな一本道だから片手でもハンドリングはできた。 「……じゃあ、今日は、早く帰らなくても平気だね」 「ナギサは……いま何を考えてる? 歌ってみるか?」 「バカな雅紀さん……」  きっと顔は赤く染まってしまっているかもしれない。  なぜならナギサの頭のなかでは雅紀に抱かれる妄想が広がっていたからだ。歌うことを拒否したナギサに代わって、雅紀は流れているロックを口ずさむ。 〈今夜、この近くのホテルに泊まらないか?〉  聞こえた【偏愛音感】の声はナギサの脳内から身体じゅうに駆け巡って、鳥肌が広がった。 「もう……なんで、歌うの?」 「なんでもなにも、ナギサの故郷で俺と一泊するのは、嫌?」  すぐに行きたい、いますぐにだってホテルへ行きたい。  そう伝えれば、きっと雅紀が喜ぶことは分かる。頭では分かっているのに、口から素直に言葉が出てこないことにナギサはもどかしさを感じた。  雅紀と身体を繋ぐことばかり考えていると思われたくない。雅紀が言ってくれるのは嬉しいのに、自分から雅紀を喜ばせるようなことがひとつもできずにいる。 「……嫌じゃないけど」 「けど? 他になにか理由があるの?」  ハンドルを握る手まで汗が滲んでしまう。  まだ正式な恋人ではないことがナギサにブレーキをかけた。  恋人になっていないのに、身体を結ぶような行為をすることになってしまったら、もしかしたら次の日には捨てられてしまうかもしれない不安が過ぎる。それと同時に漣音は雅紀に抱かれているかもしれない事実がせめぎ合う。

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