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LESSONⅦ:第72話
「出会ったときの漣音は耳にたくさんのピアスをつけて髪も金色に染めていた。他人に対して心を許すことはない、という揺るがない決意が滲み出てた。俺は一目見たときから、危なっかしいヤツだと思って気になってしまって、傍にいてやりたいと思ったんだ。いままでそんな気持ちになったことなんてないのに。どちらかというと人の面倒ごとが目に付いてしまう体質だから避けなければと思っているタイプだったのにな」
「それで一緒に住むことになったんだよね?」
雅紀の手のひらに力が入る。そのころの雅紀はすでに漣音と組むバンドの前身でメジャーデビューをしていたし、そこそこ名を売っていたので、いま住んでいるマンションで暮らしていた。広すぎる部屋にひとりくらい収容するのは簡単だろう。
「俺はアイツがそれまでどんな暮らしをしていたのかいまだに分からないけれど、一緒に暮らすことになった最初の夜に俺の前で裸になったんだ。まるで娼婦のように。そういうつもりで俺は漣音を部屋に連れて帰ったわけではないのに」
漣音が施設で過ごした時間や飛び出してから、どれだけ辛いことを経験したのか計り知れなかった。捨てられた猫が人間に拾われて、怯えるような眼差しを向ける姿が重なる。
「俺はそれまで恋愛を軽視している部分があったから、特定の恋人を作らずに遊んでいた。もしかすると彼はそんな俺を見抜いていたのかもしれない。身体目的だろう、と。手を差し伸べる大人に対して性別関係なく、極度に傷つけられてきたのかもしれない。優しさの裏には欲があることをあの年齢で知っていたんだ。それに相手の欲望を満たすことができれば、自分でも役に立つと、セックスで存在価値を見出していたというか」
漣音の気持ちがひどく理解できた。家族がバラバラになってから居場所のなかった自分を認めてくれる場所や存在にすがりたくなってしまうのだ。今度こそ捨てられないように、上手に、気に入られるように。
「それで、その夜は漣音を……?」
「いや、抱かなかった。というか抱けなかったというのが正しいかもしれない。怯えるように自分の服を脱いで、俺の下半身に顔を埋める姿を見たら、怒りが込み上げてきたんだ。もっと自分を大切にしろって大声を上げたら、漣音は驚いて、一晩中泣いていたんだ」
そのときのことを思い出したのか、雅紀は肩を揺らして、蘇る悲しみに堪えているようだった。
「だからずっとベッドのなかで抱き締めて、もう大丈夫だからって言い続けた。そういう夜を重ねるうちに、漣音は俺に対して少しずつ心を許すようになった」
望んで聞くと言ったくせに漣音との関係がありありと脳内で描かれると胸が張り裂けそうだった。自分以外の誰かと身体の関係を結ぶ雅紀を考えたくなかった。
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