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LESSONⅦ:第74話
もしかすると雅紀は漣音にしてやれなかったことを自分へしようとしているのかもしれない。人は誰しも過ちを犯してしまうけれど、繰り返さずに乗り越えることで強く生きられるようになる。
「もしまた【偏愛音感】が聞こえる相手に出会ったら、今度こそ、添い遂げる覚悟をしたい。そうすることしか俺にはできないと思ったんだ。もう漣音は俺の隣から旅立ってしまったのだから」
「じゃあどうしてボクの声が【偏愛音感】で聞こえたのに、仮契約の恋人だったの?」
涙声だったかもしれない。彼の胸に顔を埋めたまま問うた。
「怖かった。好きになったナギサと出会うことができただけでも奇跡なのに、【偏愛音感】でナギサの声が聞こえたとき信じられなかったんだ。ナギサに嫌われたくないのもあったけれど、告白して断られるのが怖かった。想いを告げることは恥ずかしながら恋愛では初めてだったから。傷つく自分を守るために、恋人ごっこの契約とか言ってしまったんだ。バカだよな。俺は度胸がない愚か者なんだ」
埋めていた顔を上げると雅紀の瞳のふちには涙の雫が溢れている。あともう少しで零れてしまいそうだ。
「結果的に漣音が再び現れて、ナギサの気持ちを乱すことになってしまった。漣音がしばらく家にいたあいだに話し合うこともできたし、想いを伝えることもできた。漣音は他に恋人がいると言っていたが、本当の気持ちは分からない。ただひとつ言えることは、いまの俺はナギサのことが欲しくて、欲しくて仕方がない。自分に縛り付けて誰かに触れさせたくないくらい大好きなんだ」
過去は変えられないというけれど、いままで歩んできた道のりはすべていま自分が立っている場所に繋がっている。
きっと愛せない女たちを抱いてきたことも、漣音と出会ってバンドを成功させて、見事に全部失ったことも、いま自分が雅紀の腕のなかで抱かれることに繋がっていたのかもしれない。
それはナギサの人生でも同じことが言える。
両親が離婚して、漣音と引き離されて別々に暮らしてきたから孤独を感じていた。
かすかな望みをかけて漣音に届けるために歌を配信し始めたが、歌に救われて好きな人ができたうえに漣音とも再会できた。もし家族四人で仲良く暮らしていたら、歌手にもなっていないし、雅紀と出会うこともなかったのだろう。
歩み進む道にはたくさんの選択肢があって、ひとつひとつ自分で決めた答えの先にいまの自分がいる。
すべての選択に間違いなどない。
意志を持って選択した答えはすべて尊くて正解なのだ。
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