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LESSONⅦ:第75話
「ナギサ……、ごめん。契約を破棄したい」
波の音が大きくなった気がした。静かに沖合へ引くと再び大波が押し寄せた。
「破棄ってどういうこと……?」
泡立つ波がナギサと雅紀の影を消す。何かが終わり、新しい時間を刻み始める瞬間が来た。
「俺と正式に恋人になってくれないか?」
絶え間なく聞こえていた波の音さえも消えるくらい、いまは雅紀とふたりの世界。
こういうとき、なんて答えればいいのだろう。
答えを待つことができない雅紀は顎を持ち上げて、切れ長で冷酷な二重の瞳を潤ませながら口付けをした。こんなにも息が止まりそうなキスがあることを、いま初めて知る。
「もしかして、なんて言うのか分からないのか?」
ナギサは強く押されて赤く腫れた唇をわずかに横に引いて頷く。
「いま、ナギサはどんな気持ちになってる? 胸のなかは温かい?」
手のひらを胸に当てる。ものすごく心臓が早く動いていることにナギサは驚いた。早く動きすぎて止まってしまうのではと心配になるくらいに。
「熱いよ、ここ。そうだ、これを好きって言うんだよね。雅紀さんと恋人になることに、胸がドキドキしているってことだね。好きだから、熱いんだ。ずっとこんなに熱いのかな」
「あぁ、俺と恋人になったら、冷え性は改善するぞ?」
「元からボク、冷え性じゃないし」
もう一度、雅紀の唇が重なる。波の音は微かに耳に届いた。まるで拍手をしてくれているかのようにささやかに。
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