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LESSONⅧ:第82話
期待を裏切って怒らせたのかと思い、慌てて彼の背中を追う。
ホテルの廊下で、雅紀はひとことも喋らずに背中を向けたままだ。
(どうして……振り向いてくれないんだろう……)
彼の広々とした後ろ姿を浴衣越しに見つめる。
まだ考えていることを理解できない不安と、これからこの人に抱かれるかもしれないという気持ちが交差して心拍数が上がってしまった。
泊まる部屋のドアの前に着くと、雅紀はルームキーをかざした。
ピッと機械音が廊下へ響いて解錠される。
雅紀は先に中へ入り、腕だけナギサのほうへ伸ばすとその手のひらに強引に引っ張られた。そのまま彼の胸の中へ抱き寄せられて、ナギサは顔を雅紀の胸のなかへ埋める格好になった。
「あぁ、ようやく部屋についた」
雅紀の両腕にきつく抱き締められる。
微かなせっけんの香り、穏やかではない呼吸音。
埋めた顔の顎先へ雅紀の指が伸びて、軽く持ち上げられるとすこしも笑っていない目と目が合った。
「いまからは、俺の食事タイムだ」
たいそう腹を減らした狼のような勢いで唇が重なる。
部屋の静寂に紛れて聞こえるのは波の音だ。それよりも雅紀が唇を吸う音が勝る。
寄せては引く波のように唇を食べ尽くす音が大きくなったり小さくなったりと耳の奥が支配される。
薄い生地の浴衣だから、腹のあたりに硬いなにかが当たっているのが分かる。
布越しでもはっきりと形状を意識せずにはいられない。
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