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LESSONⅧ:第81話

「ダメなの?」  まだ彼の瞳を見つめ返すことができない。どんぶりに半分残った海鮮丼に告白をしているようだった。  雅紀のピックが付けられた合鍵が自分の部屋の鍵になればいいのに。  ずっとひとりだった、というよりかは存在を無視されてきたナギサにとって、初めて好きになった人と一緒に暮らしたいと思うのは贅沢な願いなのだろうか。 「ダメなわけないだろ。すぐにでも一緒に暮らそう。ナギサさえよければいつだって俺の部屋に引っ越して来い」  ナギサは残りのご飯を口へ運びながら頷く。  嬉しさが最後の一粒にまで美味しい味付けをした。食べ終わると勝手に笑みが零れて「ごちそうさま」と雅紀の顔を見ながら告げた。 「その笑顔なんだ。俺がナギサを好きになったきっかけは。欲求を満たしたあとのナギサはとっても可愛いんだ。こんなにも目が離せなくなった人と出会ったのはナギサだけだ」  それ以上見ていられないと言わんばかりに雅紀はグラスに残っていたジンジャーエールを飲み干す。 「そうだ、ナギサ。アイスも食べていいからな。いつも俺の部屋の冷凍庫にアイスを常備しているくらい好きだもんな」 「いいの? ありがと、雅紀さん」 「当たり前だ。スプーンを舐める姿も見せてくれ」 「……バカな雅紀さん。ぜったいスプーンで食べないから」 「スプーンで食べないソフトクリームでもいいぞ。すこし溶けてきたくらいに舌でクリームをすくって舐めてくれ」  すぐに運ばれてきたオシャレな器に盛られたアイスをナギサはスプーンを舐めないようにそっぽを向きながら食べ終えた。雅紀のいやらしい期待を叶えたくなくて、本当はスプーンまで舐め回したい気持ちを抑えた。 「いい度胸だ。それはあとで部屋で本番を見せてくれるってことだな?」  雅紀はそう言って、部屋へ戻るためにナギサの返事を待たずに席を立った。

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