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LESSONⅧ:第91話

「えっ、やっ、またきちゃうっ」  とつぜん握られて快感の波がさらに増したナギサは腰を浮かせて身体を仰け反らせた。  その体勢は入ってる雅紀のさらに硬さを増したそれをきつく締めつけてしまう。  足の指でシーツを掴もうともがき、手の指は雅紀の背中をひっかく。  震えが止まらなくなり、腰の奥深くから射精感が急速に込み上げられた。 「あぁっ、ま、雅紀さん、だ、大好き、大好き。ボクだけの雅紀さんっ。あぁっ!」  さきほどよりも目の前に白く煌めきが広がっていた。  脳内が停止したようにぐったりと身体の力が抜けてしまう。すると雅紀の身体もどさりとナギサの上にのしかかってきて、一緒に頂点を極めたことに気が付いた。  呼吸が落ち着くと雅紀は隣に寝転んで深呼吸を繰り返している。身体が離れると腹のあいだにどろりと白濁のものがたくさん広がっていた。 「ごめん……ナギサ。混ざりあってるから、触るな」 「どうして? 雅紀さんから出たものは、ボクにとってご馳走なのに?」 「あー、もう、どうしてそういうこと言うの? いま終わったのに、またしたくなって離れられなくなるだろ?」 「……離れないでよ」   一分、一秒でもずっと離れたくないって思ってしまう。  ずっとひとりだったせいか、誰かと恋に落ちるとこんなにも離れたくないと願うことになるなんて、よけいな不安がつきまとう。 「あぁ、離れないさ。だってもう、サヨナラを言わなくていいだろ? 同じ家に帰るんだし」  ナギサは誰かを好きになることが怖かった。  深く激しく恋をして、もし捨てられたら、失ったら、また一人ぼっちになってしまう。  小さいころに家族がいなくなる瞬間は、朧気ながらずっと頭のなかでトラウマになっていたのだ。  捨てられるくらいなら、自らひとりになることを望んで母親から離れた。  それなのに本当はひとりが怖いから、誰かに向かって歌い始めた。歌に出会えたことで、画面の向こうにいた人が見つけてくれて、歌手になることができた。  そして恋をする勇気を取り戻した。 「あれだけ恋人という関係を嫌悪していた俺が初めて恋人にしたいと思ったくらい大好きだから離れるわけないだろ。これはその印だ」  雅紀は首筋についたマークを指でなぞる。  理人がつけた涼太の身体にあったキスマークを見てから密かに憧れていた恋人からの刻印。いま身体に初めて大好きな雅紀から受け取った。 「まいにち、つけてくれる? 消える日がないくらいに。雅紀さんがボクの身体を支配している証拠、残して欲しい」 「いいけど、撮影とか入ってないよな?」 「入っていたらダメなの? 見えない部分なら構わないよ。それとも雅紀さんはボクとの関係が公になるのが怖い?」 「いや、週刊誌なんてどうでもいい。ただ俺にはたったひとつだけ怖いものがある」 「なんだろう。週刊誌の帝王でも怖いものって」 「ナギサを失うことだ」  その怖さを聞いて、雅紀の首筋に両手を回す。  【偏愛音感】で結ばれていても、やはり怖いものはみな一緒だ。ふたり一緒に去るなんてことはそれこそ奇跡だから。ひとりになることは誰しもが怖い。 「分かるよ。ボクだって雅紀さんを失うことがいちばん怖い。考えたくないから、いまは【偏愛音感】を信じようよ。きっとひとりになってしまっても、【偏愛音感】で歌えば、あっちのセカイにも届くかもしれないから」 「……ナギサ」  首筋のいちばん感じる場所に唇があてがわれる。  海辺の古いホテルで身体も心も繋がったナギサと雅紀はもちろんバーになど行く時間などなかった。  一心同体になっている間じゅう、絶え間なく波は旋律を奏でている。  渚は繊細な漣を繰り返し、まるでナギサと雅紀を優しく包み込むような穏やかな波音だった。

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