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LESSONⅨ:第92話
雅紀から恋人の仮契約を破棄されて、本当の恋人になった日から一か月が経った。
彼から受け取った合鍵が自分の部屋の鍵になり、彼の匂いが染み込んだ広いベッドで当たり前のように寝起きをしている。
今朝も雅紀の腕の中で目覚めた。
もうこのベッドは彼の匂いだけではなく、自分の匂いも一緒に混ざり合ったベッドと呼ぶことが正解かもしれない。
海辺の古い宿で正式な恋人として抱き合った晩から、タイミングが合うと必ず雅紀に身体を求められた。互いに本当の恋人という関係にまだ慣れずに相手と繋がることで不安を埋めようとしているのかもしれない。
いつかそんな夜が少なくなったとしても、それは不安定な関係が終わったという証拠として捉えたい。
手を繋ぐだけで、声を聞くだけで、隣にいてくれるだけで欲望が満たされるようなパートナーでありたかった。
まだ目を覚ましていない雅紀の横顔をまどろむ瞳で見つめる。こんなにも端正な寝顔が存在するのかと溜息すら出てしまう。
「綺麗だね、いつ見ても」
そっと彼の頬にナギサは指を這わせる。
最初にラジオ番組で会ったときも同じことを思った。目の前でヘッドフォンをしながらナギサのことを語る彼に。
「そのときから、こうなる運命だったのかな。【偏愛音感】で探し出した相手なら」
すると彼の瞼が開いて視線がぶつかった。
「わっ! 起きてたの?」
「まぁな。少し前から起きてた」
雅紀に抱き寄せられて、心地よい人肌の温もりが身体に触れる。
「どうしたの、俺の顔に触れてくれるなんて珍しいな。あんなに抱いたのに足りなかった?」
「ち、違うよ。ただ横顔がとても綺麗だなって」
「俺が?」
呆れたように笑う彼にナギサは小さく頷いた。
「そうか? ナギサに言われると照れるな」
前髪に口づけをされる。
しばらく見つめ合ったあと雅紀はナギサの顎を持ち上げて改めてキスをした。
舌が簡単に中へ入り込み、呼応するようにナギサが絡ませるとさんざん疼いたあとの身体だというのに欲望は勝手に蘇る。
「今日はふたりともオフだ。そんな朝は、太陽が昇りきる前からしても許されるよな」
まだナギサの中には雅紀が放った熱が残っているからすぐにでも迎え入れることができそうだった。ナギサは起き上がり、雅紀の上に跨った。
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