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LESSONⅨ:第94話

 身体を仰け反らせ、髪を振り乱しながら雅紀の上で踊るナギサはひとりで歌っていたときの自分はもう別人だ。自ら愛を求めることができるようになったのだ。 「愛してる、ナギサ。一生、俺のそばにいろ。いや、生まれ変わっても俺の隣にいてもらうから、覚悟しろよ」  ぴったりとハマった鍵のように雅紀のそれとナギサの中が合致する。するとスイッチを思いっきり押したように、脳内へ快感の電光のようなものが伝達された。 「あぁ、雅紀さんっ、ぼ、ボクもあ、あい、愛してる!」 「俺の可愛いナギサ……。ナギサのすべてを知ることができるのは、俺だけだから」  ずんと重く彼自身が奥深くへ到達すると、中で彼のぬくもりと同じ温度がじんわりと広がるのを感じた。ずっとこの熱を受け止めていたい。そう思った瞬間、ナギサも彼の胸の上に白い愛を飛ばした。 「愛してる、ってなんだろう?」 「ナギサ……分からないのに言ったのか?」  力が抜けて彼の上に寄りかかる。  愛されることも愛すことも知らずに生きてきた。  だけれど愛していると言われたら、この人の隣でなにがあっても守りたい、力になりたい、そんな気持ちが湧きあがった。 「愛って見えないから。感じることかな?」 「そうだな。だから【偏愛音感】なんて言葉ができたんじゃないか?」  愛をどう受け取るかは、相手しだい。きっと愛されている実感の内容は人それぞれなのかもしれない。求めるものではなく、愛は感じることなのだろう。 「だったら、ボクはいまとっても愛されてるね」 「いまさら、何を言っているんだよ。当たり前だろ」  この上ない満足を噛みしめながら、雅紀の首元に鼻先をつける。  愛を知らないなんて、思い込みだったのだろう。ずっと前から、もしかすると自分はたくさんの愛を受け取っていたのかもしれない。

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