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LESSONⅨ:第97話

『Dear Nagisa 元気にしてる? マサキさんのマンションに送ったけどきっと届いているよね? 僕がせっかくイギリスに戻ったんだから、マサキさんの腕を絶対に離しちゃダメだよ』  宛名欄に漣音の短い文章が添えられたポストカード。  裏返すとそこには八重歯をのぞかせながら笑う漣音と知らない日本人男性が仲睦まじく顔を寄せ合った写真が印刷されていた。  油性のペンで『これが僕のパートナー、マキだよ』と。 「え? 漣音のパートナーってイギリスの人じゃないんだ。しかもこの相手、どう見ても雅紀さんにそっくりなんだけど」  そのハガキを雅紀に突き付ける。彼はじっくりと点検したが、「そうか? 似てないと思うけどな」と言うまでに留めたようだった。 「あ、俺のほうがいい男だって思ったんでしょ」 「まぁな。それにこの写真の漣音は嘘ついているときの顔だ」  そう言って雅紀さんはポストカードをナギサへ返した。 「笑顔じたいはナギサとそっくりな表情なのに、ナギサのように自然と気持ちを表情に出すことが苦手なんだ、アイツは」  大勢が暮らす施設で育ったからなのか、周囲の人から好かれようとしたせいなのか、いつの間にか漣音は自分の本当の気持ちを顔に表すことができなくなっていたのかもしれない。それを見抜ける雅紀だから、きっと漣音は彼の前だけでは自然に振舞えていたのだろう。

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