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LESSONⅨ:第99話
漣音とナギサがお互いに声が聞こえるのは、恐らく前世の繋がりを探し出す能力だろう。
この世でも離れたり、ライバルになったりと不思議な関係だ。
いったい前世ではどんな深い関係性を結んでいたのだろう。
「そればかりはぜったいに分かることはないんだろうな。【偏愛音感】にはまだ謎が多すぎて扱いにくい」
雅紀はそう言って、スマホで何かを調べ始めた。
「なぁ、今日はこのあと、映画でも見に行くか?」
検索を終えたスマホの画面をナギサに突き出す。そこには『映画・偏愛音感』と書いてあった。主題歌を新しいボーカルを迎えて復帰した大人気バンド・トリックスが務めることで話題だった。それに理人にそっくりなアイドルを卒業した桐生ジュンが主演だ。
「あー、この映画始まったんだ。主演の桐生ジュンってアイドル、理人さんにそっくりだよね」
「そうか? アイドルに似ているくらい高輪理人ってカッコよかったか?」
雅紀は理人の名を聞くと鋭く反応する。口を尖らせながら画面をまじまじと見つめている。
「アイツ……今後の音楽業界を賑わすようなプロデューサーになると思うんだ。ナギサを俺の事務所に引き抜きたかったけど、いまはもうこうして隣にいるから、個人的に歌ってもらえるから、その点では高輪理人と戦わずに済んだ」
どうやら雅紀はこの前のアリーナ―ライブで理人とキスしたことをまだ根にもっているようだった。仕事上では雅紀と戦うことになってしまうかもしれない。それでもこの部屋にいるときはボーダーレスだ。
「何時の回にする?」
尋ねながらナギサは向かい合っている席を離れ、雅紀の膝の上に乗って両手を彼の首へ絡ませた。誰も見ていないところでは甘えたい。ずっと離れたくない。
「レイトショーかな」
「えっ、午後の回じゃなくて?」
「膝の上にナギサが乗ったら、家を出るのが遅くなることに気づいてないな?」
雅紀は啄むように口付けをする。それからこの映画の主題歌を口ずさんだ。
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