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第4話 勇者ではなかったので

「貴殿には騎士団の第三兵団へ配属を遣わす」  召喚に関わっていた国王直々の命令である。  召喚した勇者が人違いだった事が判明してはや数日。    巡は一世一代の危機に陥っていた。    というのも、異世界から召喚された自分が伝説の勇者ではなかったからである。    聖剣の儀と称して聖剣を抜けるかどうか試された巡は見事に抜くことができず、辺りには物凄く気まずい空気が漂った。  しかし頑張ってみるものの聖剣が抜けることはなく、召喚されたのは勇者ではなく人違いだということがバレてしまったのであった。    問題なのはその後である。  仮にも異世界人を召喚した立場でありながら、この国、アルストリウルスは巡を兵団の第三部隊へ送り込むと宣いだした。    巡も最初はその重要性に気付いていなかった。  何しろ異世界から来たのだし、自分を召喚した国のことも、どういう状況の国が異世界人の召喚に踏み切るのかなんてこともはっきりとは把握していなかったからである。    気付いたのは、前回とは違いお付きのメイドも何もなく神殿からほっぽり出された後だった。  なんとこの国、勇者が人違いだったからと巡に何の恩恵も与えず野へ放ち、自分の力で生きていけと言う。    そんなバカなと、元の世界へ帰らせてくれと懇願してみたが、この世界では異世界召喚の魔法陣を完成させるのがやっとで、今回の間違いもどこをどう取り違えて人違いに至ったのかもまだ解明されていないのに元の世界に帰る方法などあるはずがないと言う。 「なぜ貴方様は勇者ではなかったのでしょうか……」 「そちらが召喚したい人とは別に異世界に召喚されやすい体質の人間がいるからですかね……俺とか」  このような会話で打ち止めである。  これでは異世界に召喚された挙句路頭に迷って死ねと言われているのと変わらない。  仕事をくれと頼み込んでみたところ、それでは騎士団に入るのはどうかと提案された。    騎士団と言えば、王宮の花形ではないのかと喜んだのも束の間、神官たちの説明によってそれは間違いであると思い知らされた。    なんとこの国の騎士団、最近この世界へ浸食が進んでいる魔界との境界線へ派遣され前線で戦うのだという。  魔界とは戦争などないが、浸食が進めば魔獣やモンスターの出現が増え民間に危害を及ぼすため、騎士団が向かうのだとか。    普通、騎士団とは戦争さえなければ命の心配まではしなくても良いものだと思い込んでいた。  それは前回の転生による記憶から算出した勝手な妄想である。前回の世界では、天候が敵であり、国との対立がなかった転生先では騎士団は鍛練や街の警備が主な仕事だったからだ。    早い話、アルストリウルスという国は人違いを保護するくらいなら前線に送り込んでその先野垂れ死のうが戦って死のうが構わないと言っているのである。    しかも、詳しい話はわからないが第三兵団という微妙な数字の騎士団に送り込まれるらしい。  第一や第二なら前線から少しは遠のけるのだろうか。    そんなことを心配したとて、後の祭り。  巡は国家直々の命にてアルストリウルス国騎士団第三兵団へ所属することとなった。

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