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第5話 劣等生に、俺はなる
「あのー、来ました」
「来ましたとは何だ!何処の誰だ貴様は!兵長の手を煩わせるのであれば騎士たるもの挨拶しろ!」
いきなりの怒号である。
確かに挨拶は大事である。
社会人として挨拶は基本だが巡は軽作業の工場勤務しかしたことがなく体育会系の空気などたの字も知らない。
「今日から第三兵団に所属させていただくことになりました。初崎 巡と申します。よろしくお願いします」
これでどうかと様子を伺ってみるとこれは当たりだったようで、怒号を飛ばした張本人であり、第三兵団の兵長はこちらに向き直り鋭い眼光で巡を頭の先から足のつま先まで見回した。
「ハツザク?」
「初崎です」
「ハチザクィ」
「巡です」
「メグル」
「ハイ」
この国には無い発音なのか、初崎が言えない。
巡の名も少しアクセントの利いた発音だが、名前の方が良さそうなので返事しておく。
「国王から配属の件、承っている。兵長のバリヤ・オノルタだ。貴様は異世界人間だな」
「ハイ」
「これからアルストリウルス国騎士団の一員として貴様は剣を振るい己が命を懸けてこの世界を魔界から守ることとなる。鍛錬として鍛えはするが死なないようにするのは個人の器量だ。精々死なないように戦地を逃げ回る練習でもしておけ」
「……ハイ?」
「貴様のような貧弱な騎士は大抵モンスターや魔獣に襲われ死に至る。国に貢献し名誉ある死として奉られるのが関の山だ。この第三兵団は平民からの徴兵で団が成り立っていて、貴族や商人の家から来た者共の所属する第一、第二兵団とは違い前線へ赴く。貴様もそのうち死ぬだろうが死ぬまでは面倒見てやるから精々足掻けと言っている」
「はぁ!?!?」
「上官に向かってはぁとはなんだ!!」
「すみません!!」
国王この野郎。
召喚の儀に関わった神官の一人に連れられて兵団の訓練場へ赴いたは良いものの、ここまで本気で見捨てられているとは思いもしなかった。
「あのお……俺は一体何をすれば」
「貴様は……魔力が高いな」
「えっ」
そんな馬鹿な。一回目の異世界では魔力が無くて死んだのである。
そしてここでは聖剣も抜けなかった身である。
そんな自分が魔力が高いなんてこと、あるのだろうか。
世界によって宿るものが違うのかもしれない。
「平民から徴兵される騎士たちは貴族程ではないが魔力が高い者でなければ騎士団には入れない。貴様も奴らと同じくらいの魔力はあるようだ。
魔獣やモンスターと戦う時はどうしても魔法が必要になる。剣に魔力を纏って戦わなければ剣などすぐに折れて負けてしまうからな。貴様がまずすべきことは剣に魔力を纏わせる訓練だ」
「い、いや、あの、俺はヒーラーとかで仲間を支えたり魔導士として後方支援するのが合ってると思うんですが」
「騎士団にそのような役割は無い。そして貴様は魔導士ほど魔力が高くない」
「そ、そんなぁ……」
どうやら本当に前線へ赴かなければならないらしい。
「とはいえ剣に魔力を纏うこともできん新米を戦地へ連れて行くわけにはいかない。貴様は当分訓練場で魔力のコントロールの訓練だ。その次は真剣を使わずに騎士同士での合同訓練。それらを踏まえて初めて実戦だ」
「そうなんですか!?」
ヤッターと叫び出しそうになるのを抑えて巡は内心喜んだ。
これはもしや魔力コントロールが上手くいかなければ戦地へ赴かなくてもこの世界でやっていけるかもしれないという希望の光だった。
劣等生に、俺はなる!
屈強な武人を前に巡はほくそ笑んだ。
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