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第7話 俺はスライムだ
騎士団には団員専用の食堂があるようだった。
アルストリウルス国に来て数日の間は神官たちが客間で巡の世話をしてくれていたが、野放しになって初めての食事である。
バリヤの案内で食堂の列に並ぶと、厨房からスープや野菜、肉、パンが並んだトレーが差し出される。
各自それを受け取って方々の席へと散っていく。
巡もトレーを受け取って席へ足を運ぼうとしたが、先を行くバリヤはなぜかトレーを受け取っておらず、手ぶらだった。
「兵長は、食事されないんですか」
「食事は、する」
「え、でも……」
巡の言葉を無視してバリヤはずんずんと進んでいく。
この国に3つしかない騎士団の兵長の登場とあってウロウロしていた人間や獣人の騎士たちがワッと道をあける。
「なんでバリヤ様が食堂に居るんだ」
「バリヤ様の後ろに居るのは……噂の異世界人ではないのか」
「もしや」
ザワザワと騎士たちが色めき立つ。
「座れ」
「ハイ」
一番日当たりのいい窓際の隅っこの席をとったバリヤは巡にも座るよう促し、着席した。
そして何か袋を兵団のジャケットの懐から取り出し、袋の中身を机にばら撒いた。
「騎士団では食事はこの食堂で摂るように。朝昼晩、いつでも空いている」
「わかりました。それで……兵長、その宝石は一体」
「宝石ではない。魔石だ」
「ま、魔石」
バリヤが机の上にばら撒いた魔石は、赤、黄、青、緑など、色彩豊かに煌めいていた。
と、バリヤはその内のいくつかを徐に手にし、口をあけてじゃりじゃりと頬張った。
「!?!?」
「なんだその顔は」
「えっ……だって、えっ……石食うんですか!?」
「俺は人間の食事は摂らない」
「人間じゃないんですか!?」
「俺はスライムだ」
「おれはすらいむだ!?!?」
この屈強な男のどこをどう見ればスライムに見えるのだ。
国の騎士団の兵長をやっていて、しかも人型だと!?
「俺は大量の魔力を蓄積する生きる装置としてある魔導士に拾われたスライムだ。その魔導士によって大量の魔力を使えるようになった俺は自我を持つようになり、普段は魔法で人型に扮して生活するようになった。出身は魔界付近の村で平民出身だから第三兵団に所属している」
そりゃそうだろう。
スライムと言えば、水色で、魔界との国境付近でまず初めにエンカウントするHPさえ削れば倒せるモンスターのはずである。
巡の世界のRPGなどで現れるモンスターの常識ではそうだった。魔界付近の村出身というか、この世界付近の魔界出身だろう。
というか、魔導士に魔力を注がれる前は自我が無かったのか。
「俺は腹は減らないが魔力は消費するから減った分や、より魔力を蓄積したいときは魔石や他人の魔力を喰う。第三兵団だが魔導士並みかそれ以上の魔力を保有している。兵長になって6年が経つが前線で戦い続けて死に至っていないのは魔力量が高すぎて討伐任務が魔力の発散にしかならないからだ。それ以前は第三兵団の兵長が定着することはなかったと聞いている。貴様も前線へ出れば必ず死にかけるだろうから足を引っ張らないように鍛錬に励め」
「ハ、ハイ……」
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