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第8話 できちゃったよ
物凄い話を聞いてしまった。
命の危険は無くなったと安堵していたのも束の間、目の前の兵長の話では巡も前線へ送られる日が来るかのような口ぶりである。
第三兵団の兵長が定着することは無かったということは前線での戦闘がそれだけ危険という事だろう。
「あの……俺の魔力って、どんくらいですかね」
「騎士団に合格する徴兵された騎士たちと同等だ。平民にしては魔力が高いということになる」
「俺……死なないって、できますかね」
「俺に聞くな。貴様が死なないよう努めろ」
そんなこんなで巡は魔力蓄積装置改めスライムの兵長、バリヤ・オノルタの元で働くこととなった。
「剣の全てを覆うように意識するんだ。魔力で包まれるのが見えるはずだ」
バリヤが剣の柄から剣身まで全てを魔力で覆って見せた。
訓練用の、真剣ではない剣だ。
バリヤと巡は、室内の訓練場に居た。
第三兵団は第一、第二と同じく青空の下で実践訓練を行っているらしいが、巡は初心者で剣に魔力を纏う練習から始めなければならず、別室訓練となっていた。
「俺は少し席を外すから、その間にできるかどうか試してみろ。大事なのは全身の魔力の流れを動かす感覚だ」
「ハイ」
室内は流石訓練場とあって、壁や床にも傷跡やひび割れが沢山ある。
天井にも傷があるのが気になったがスライムの兵長の体躯を思い出し、この世界では巨漢が多くて天井まで届いてしまうのではないかと思い直した。
パタムと戸の音を立ててバリヤが出ていく。
「ん、ん~~~」
剣の柄を両手で握り、先ほどのバリヤの魔力の剣を思い出しながら集中してみる。
と、ボオッと強大な魔力が剣の柄から剣の先までを覆いつくした。
「えっ……できちゃったよ」
重さなどは変わらない。
試しにブンブン剣を振ってみる。
と、剣の太刀筋から魔力の刃が空中を飛んで壁に焼き付いた。
「えっ……」
もう一度、今度は天井に向かって剣を振ってみる。
ブウンと魔力の刃が天井に飛んでいき、傷を付けた。
「あっ、あ、あああぶなッ……!!」
「できたか」
「へぁぇえ!?」
ガチャと音を立ててバリヤが戻ってきた。
剣を覆っていた魔力をシュッとしまう。
「え、え~~いや~~全然できないなぁ~~」
若干棒読みになった気がしなくもないが、魔力をしまってすっとぼける。
魔力のないそのままの剣をブンブン振って見せた。
「不出来か貴様」
「不出来て」
しかし何を言われようが今は白々しく白を切る他ない。
だから天井にまで戦闘痕があったのだ。
あんな危ないものを振り回しながら戦闘など例え訓練でもできるわけがない。否、やりたくない。
よく考えてみれば、前線での戦いで刃こぼれや折れたりもするであろう剣の一つや二つ携えて魔獣やモンスターとやりあったところで大損である。それ以上の力があるから徴兵しながらでも魔界の浸食に耐えながら戦って行けるのだろう。
そして、自分の代わりに召喚されるはずだった勇者ならば剣の質で戦うのではなく魔力でもって戦うのだろう。
しかし、魔力の刃、危なすぎる。
壁に焼き付く程の傷を負わすような危険物である。
巡はどうしても実践訓練に行きたくなかった。
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