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第16話 うぼぼぼぼ
「あ、そうだ。
勇者召喚の魔法陣の解明の件、上に報告した魔導士が居て、再度召喚することになったんだよ。
その時に使う魔力の大半を僕が負担することになったから、バリヤの魔力とメグルに流した僕の魔力を返してほしいんだよね。
殻の魔石を採ってきてもらったとこ悪いんだけど、頼むよ」
「えっ……勇者様の召喚がこんなにすぐになされるのですか?」
「うん。だってこないだ使った魔法陣に否定文足しただけだもん。
魔力は僕が居ればどうにかなるだろうってことで可決しちゃったんだよね」
「と、言われても……俺、魔力を返す方法なんて」
剣に魔力を纏わせる訓練は成功したが、一応返事をしてみる。
「うん。だから見ててよ。
バリヤが僕に魔力を返すところ」
「え!?」
「バリヤ、一番手っ取り早い方法でいいよ!」
「わかった」
ザックがバリヤに言うと、バリヤは人間からスライムの姿に変身した。
「スライム……にしてはでかいような……」
魔石採掘の道中で見たスライムの何倍か、170㎝代半ばの巡の顎先までぷにぷにと物体がうごめいている。
「バリヤは僕の魔力を沢山蓄積してるからね。
スライムは魔力の塊が魔物になったものだから、魔力が高ければ高いほど大きくなるんだ。
じゃ、行くよ~」
見たところ180㎝はあるザックだが、合図を機にバリヤがザックの背丈までプニンプニンと伸縮を繰り返し伸びた。
そしてザックはズプンとバリヤの中に入りこみ――
「いや溺れてる溺れてる!!
ザックさん~~!!!」
「うぼぼぼぼ」
ザックに魔力を明け渡し体積が小さくなっていくバリヤの一方で、ザックはスライムの中で息ができずに窒息しかけている。
「ぷはっ」
スライムの中からザックの頭が飛び出てきた。
「良い感じで魔力が戻って来てる……バリヤ、4分の3ちょうだい」
シュルルル、とバリヤが更に小さくなっていく。
それと同時にスライムに浸かっていたザックがべとべとのまま這い出てきた。
「と、こんな感じだよ。参考になったかな?」
「なるわけねーだろ!!」
スライムの魔力の受け渡し方、怖すぎる。
そして採掘の時に見たスライムと同程度まで小さくなったバリヤに、ザックが傍に用意していたらしい魔石をジャラララと突っ込んでいく。
スライムの中で魔石がうようよと泳いでいるのが見えるが、バリヤの体積がどんどん大きくなっていくのを見守る。
「僕は僕の魔力でないと拒絶反応を起こすけど、メグルとバリヤだけは他人の魔力を取り込んでも生きていられる。
バリヤは小さくなったら魔石を喰わせれば良いよ」
「そ、そうなんですか……」
「バリヤの中にはもう4分の1しか僕の魔力が残ってないけど、今ある自我が無くなっちゃうと困るから全部僕に移し替えるわけにはいかないんだ。
だから残りの魔力はメグルの番だよ」
そこで新たな問題が浮上する。
「俺、自分の魔力と、ザックさんの魔力の判別がつきません」
巡はそのまま魔力を放出しても良いのだが、ザックは他人の魔力を受け入れると拒絶反応で最悪死ぬだろう。
「手を出して」
「あっ……はい」
ザックが向かい合って立ち、手を差し出した。
巡も手を取り、ぎゅっと握り返す。
「魔力の流れを全身で感じて、動かすんだ。ゆっくりで良い」
「はい……」
剣に魔力を纏わせた時のことをイメージし、足先から頭のてっぺんまで巡る血の気を意識する。
自分の魔力とザックの魔力……、感じることはできないが、異物を押し出す感覚で自分のもの以外をザックの手に向かって誘導していく。
握り返した手に集中して魔力を流し出した。
魔力を流し込まれていた時と同じ感覚が、魔力を流し出している今も同じように突き抜ける。
「これで全部だね」
巡はパッと手を放す。
「僕の魔力だけ上手く流れてきた。よくやったよ」
労いの言葉にホッとする。
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