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第23話 一世一代の大告白

「スライムの子供ってのは結局魔力の分割でできた分身なんだよ。子供として生まれるのと同じだ。新しく生まれるスライムに自我はないよ」  はっきりと断定するザックに巡は混乱する。  初めてスライムの分裂に出くわしたミウェンも若干困惑している。 「そっそんな簡単に、子供なんて……」 「二人は、魔力の受け渡し以外何もしてないんだよね?」 「はい……ザックさんが言っていたこと以下しかしてません……な、撫でられたりとか……ハグしたりだとか……だけです」 「ま、子供だよね。今回メグルとやっちゃったことで人間に変身できるバリヤの自我が、人間の性交渉についての知識から無意識的に生み出したんじゃないかな」 「こども!!!てかやってません!!」  振り出しに戻るザックに、巡は手の中のスライムを優しく両手で包み込んだ。 「優しくしても意味ないよ。ただのスライムで自我なさそうだし」 「あんた子供って言いましたよね!?鬼かなんかなんですか?!」 「バリヤの分身なら僕の魔力蓄積しても消し飛ばない可能性があるからやってみてもいい?」 「失敗したら消し飛ぶんですよね!?ダメでしょ!!」 「わるかった」  突如謝罪を口にしたバリヤに巡は目を白黒させながら混乱するしかなかった。 「人間とは本来、お互いに好きな者同士で快楽を得るものなのだろう。俺はメグルにこんなことを強いたのかと反省しただけだ。貸せ」  巡の両掌に乗っかっていたスライムを、バリヤはむんずと掴むと自分の腹に馴染ませていった。  ヌルヌルと動きながらもスライムはバリヤの中に吸収されていく。  割れた腹筋をスライムでベトベトにしながらなじませ、バリヤはスライムの魔力を自分の中へ取り込んでいった。 「スライムは魔力の塊だからね。分裂も合体も簡単なもんだよ」  ザックは別段その光景に驚くこともなく言う。    巡はといえば、子供だと騒いでいたスライムがバリヤに吸収されて行ったのを見て目を見開いていた。  これから育てなければならないのか、名前はどうするのかなどと考えていた矢先にさっさと吸収されてしまったのである。驚くのも仕方がない。 「わるかった」  もう一度バリヤが巡に謝る。 「おれは今回のちょっとしたことで快楽を感じた。快楽とは、互いに同時に得られなければ意味がないというのに」 「た、互いに?」  驚いたのは巡である。    確かに、人間同士でやるのであれば、行為としてお互いに同時に快楽を得られるのが一番だろう。  だが、やったのは魔力の受け流しであり、それが愛撫やハグといった手段を用いた場合でも決して性交を行ったわけではないのだ。 「人間同士とは、そういうものなのだろう」 「そ……そうですね」  スライムのバリヤにも、人間に対する憧れか何かがあったということだろうか。 これではまるで二人で行為をしたかのようだった。 「バリヤは二人で気持ちよくなりたいの?」  ザックの問いに、バリヤはふと考えこんだ後、こくりと頷いた。 「メグルもバリヤのことが好きなんだよね?」 「すっ……まぁそうですけど、命の恩人として、凄く感謝してるだけです」 「バリヤ、フラれちゃったね」 「なんでそうなるんですか!」 「なんでって……魔力の受け渡しに快楽が伴う以上、これは避けては通れない問題だよ。 例えばメグルは自分一人だけ気持ちよくなって、寂しくない?虚しくならない?大きな魔力を受け渡すってのは、そういうことだよ」  バリヤはそのことについて謝っていたのだ。  バリヤ一人だけ気持ちよくなって、巡は、寂しくはなかったか。  本来分かち合うべき快感を一人で感じるバリヤを前に、虚しくはなかったか。  カッと巡の頬が熱くなった。  人間の巡よりも、スライムであるバリヤの方が、よっぽど人間らしい感覚を持っていたのだ。 「お、俺は……でも、まだ大事なことだってあるし」 「大事なこと?何の話だい」 「もしそうやって……その、れ、恋愛をするなら……、身体の付き合いの前に、手を繋いだり、キスしたり……そういうのが俺は大事だって思うんです」 「手を繋ぐのは、もうやってるんじゃないのかい」 「そ、それはそうですけど。 じゃあ、もしバリヤさんが俺のことを本気で心配して……俺と恋愛をしてくれる気になる時が来たら、俺にキスをしてください」  できないだろうと高をくくっているわけではなかった。  バリヤもザックも、本気で自分のことを心配してくれたからこそ、そういう感覚になれた。  巡の気持ちでは、ザックやバリヤの言う通り、一人ではとても寂しいことだったからだ。 「今はまだ結構です。俺のことが心配なだけで、好きじゃないなら、一緒に気持ちよくなるようなことをしても、キスしても、同じだと思うんです。心が伴わないなら。だったら、バリヤさんが俺のことを好きになってくれるように、俺、頑張ります。だからもし俺のことを好きになる日が来たら、きっと、キスしてください。  そしたら俺、寂しさとも虚しさとも無縁でこの世界に居られます。ザックさんの魔力もいっぱい受け入れます。バリヤさんをどうしたって振り向かせます。  対戦よろしくお願いします!!!」  初崎巡、一世一代の大告白であった。  そしてこれは、スライムと人間の恋のきっかけになる。

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