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第26話 一振り、二振り、三振り
「まずは魔力の拒絶反応が本当に無いのかどうかだ。直接魔力を流すと壊れるかもしれない。それじゃあ魔石の魔力を体内に取り込んでみろ」
解放された巡は掌に大きな魔石を握らされた。
「こいつが何かされたくなかったら、俺たちの言うことを聞けよ、異世界人間」
ミウェンが人質に取られた。
しかし緊張してじっとりと汗をかいた掌では焦るばかりで全く魔力を取り込めない。
「どうした。お前に都合の悪いことはまだ何もないはずだろ。
魔力を取り込め」
「な、慣れてなくて……できな……」
「チッ。役に立たないな。じゃあこの殻の魔石に魔力を入れてみろ」
今度は殻の魔石に持ち替えさせられる。
魔導士たちの機嫌を損ねないように、巡は深呼吸をして集中する。
魔石の色が巡の魔力で満たされていき、満タンになるまでしばらくかかった。
「これが異世界人の魔力か……この世界の魔力とは何か違うのか?」
「見ただけじゃわからないな」
魔導士たちが浮足立ち、魔石に気を取られている間に巡はミウェンの猿轡を外した。
「逃げましょう……メグル殿!!」
「あっ!おい、逃げるな!!」
すぐに見つかり、魔導士たちが何か魔法を唱える。
「この部屋からは出さない」
目の前に魔法陣がバババと並び、逃げ場を奪っていく。
「ぼ……防衛魔法!!」
バリヤからもらった護身用の魔石のネックレスから魔法が飛び出す。
ミウェンと巡を大きなバリアが囲った。
「くそ……これじゃ触れもしねぇ」
バリアの外側から魔導士たちがバリアを壊そうと攻撃魔法を繰り出す。
「こ、これ大丈夫なんですかミウェンさん!」
「私にも限度はわかりません……メグル殿、バリヤ様を!!」
巡はザックにもらった魔道具、懐中魔法陣を取り出した。
「召喚魔法!!バリヤさん!!」
ヌルン。
小さな魔法陣から巨体のバリヤが召喚された。
「む。なんだ貴様らは」
「だ……第三兵団のバリヤ!?」
「なぜここに……」
バリヤは一瞬、腕を縛られたままのミウェンと突っ立っている巡を見て、聞くまでもなく、瞬時の判断で剣を抜いた。
剣に魔力を宿し、躊躇いもなく一振り、二振り、三振り。
部屋は全壊した。
天井が崩壊し屋根裏がむき出しになり、床には裂けた後、壁は切ったままずり落ちて隣の部屋と吹き抜けになってしまった。
追撃とばかりにバリヤが何やら魔法を唱えだす。
「ま……待て!!やめてくれ!!俺たちの研究成果が!!大事な魔導書たちが!!」
「俺たちが悪かった!!今後一切手は出さないから!!」
「……本当だな」
「嘘じゃない!」
ミウェンと巡をバリヤは片腕ずつで担ぎ、部屋を出ていった。
魔導士たちは巡の魔力が宿った魔石を大事そうに守りながら、床へとへたり込んだ。
「貴様ら、あの部屋で一体何をしていた」
「ザック様のライバルの方々につかまって、メグル殿が生態研究をされるところでした」
「ザックが居なくなって早々……」
チッとバリヤは舌打ちした。
ミウェンは後ろ手にきつく縛られていた麻紐を切り落としてもらい、両手が自由に使えるようになった。
「仕方ない。貴様らは日中は俺の傍に居ろ。メグル、晩は俺の部屋に泊まれ」
「ええっ」
驚いた巡に、バリヤは当然のように言った。
「今回のように目を離した隙を襲われると誰も助けてやれない。貴様は死にたいのか?」
「いいえ!滅相もない!!」
「ではこれからはそうしろ」
「はい!!」
とは言ったものの、巡の側役であるミウェンでさえ、神官たちの館に戻ればそれぞれの自室へ戻っていたのだ。
四六時中誰かと一緒だなんて、息が詰まる以外の何物でもなかった。
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