28 / 75

第28話 アルストリウルス語

「副兵長というのは、通常は居ないんですか?」 「いませんよ。騎士団には騎士団長が居ますが、兵長がその部下のようなものですので。魔導士の方々と兵長以上の方々は神官よりも位が高いんです。副兵長なら神官とも同等かもしれませんね」  湧いて出た疑問に、ミウェンは丁寧に答えてくれた。    二人は国の貴族たちの働く室外で待ち時間を潰していた。    魔導士の位が高いアルストリウルスでは、魔力量の大きな血筋である貴族たちが存在し、貴族はいわゆるお偉いさんとして国に仕えているのだそうだ。  魔導士の研究成果や騎士たちの功績を認めるのも貴族。または国王の血筋の王族。    それほど魔力量の多さというのはアルストリウルスでは重要で、平民たちは魔力量が少ないということらしかった。  例外があっても、その例外の魔力量の大きな人間たちは子供の頃から常軌を逸し、ゆくゆくは魔導士になるので、位の高い者たちは全て魔力の大きな人たちばかりということらしかった。   「ザック様は魔導士のトップですから、その魔力を大量に保有するバリヤ様も地位が上がりやすいのです」 「へー……そうなんですね。俺は第三兵団の騎士達と同じくらいの魔力量だってバリヤさんが言ってましたけど」 「でしたら我々神官と同じくらいのものですね。第一兵団や第二兵団は、元々魔力量が多くて安定している貴族や王族の方々が所属する部隊ですから滅多に地位の変動がありませんけど、第三兵団なら副兵長の案もすぐに可決するでしょう」 「やっぱり、魔力の受け皿にされるくらいだから、元々の魔力量は満杯ってわけじゃないんですね」 「多くはないというだけで、平民の方々と比べれば少なくはありませんよ。受け皿としては追加で魔力を入れるのに困らない分量というくらいです」 「魔力量の大きさっていうのは、目に見える者なんですか?ザックさんやバリヤさんは見ただけでそう言ってましたが」 「見えるというより、感じるものですね。これはメグル殿が異世界人だからわかりにくいのかもしれません」  ガチャリと扉が開き、バリヤが室内から出てきた。   「どうでしたか?」  ミウェンの声にバリヤは首を横に振った。   「えっ」 「駄目だったんですか」 「ああ」  何故!?とミウェンが声を上げると、バリヤは巡に向かって何かを呟いた。   「今のは何と聞こえた」 「えっ……何を言っているかわかりませんでした」  再度、もう一度同じ言葉をバリヤが紡ぐ。  巡には、何を言っているかわからなかった。   「バリアの魔法の呪文ですよね。それがどうかしたのですか?」  ミウェンがバリヤに訊くと、バリヤは自身の右手を巡に見せた。    巡とミウェンを守ったバリア魔法が、バリヤの右手に施してあるのが見てとれた。   「これは、この国の言葉だ。  魔術は全て言葉を理解しないと使えない。  メグルは最初からなぜか俺達と会話ができていたが、本当はこの国の言葉がわかって会話ができているわけではないのだろう。  魔法を教えると言ったら異世界人はこの世界の言葉がわかるのかと聞かれた。おそらく答えはノーだ。  メグルは元の世界の言葉のままでは魔法が使えない。この国の言葉を覚えることから始めなければいけない」 「だ……だから却下されたんですか!?」 「ああ。先に読み書きの練習をさせてから魔法の練習をさせろと言われた」 「なるほど……たしかに俺、なぜか最初から会話、できてますもんね……」 「魔法が使えないことよりも、俺と一緒に居られないことの方が危険だ。メグルが魔法を覚えきれなかったとしても、魔法を教えるという名目で一緒にいるだけでも話が違ったのに」  世界が違うから、巡は魔法が使えない。  今まではそう思っていた。  ただ、よく考えれば巡に魔力がついたのも以前の世界でのことであろう。魔法が使える世界の言葉を知らないから魔法が使えなかっただけで、以前の世界にも魔法はあったのかもしれない。巡を召喚する召喚魔法はあったのだから当たり前か。  元の世界には魔法は無かった。  否、魔法が使える言語ではなかっただけともいえるだろう。

ともだちにシェアしよう!