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第30話 スライムになってます
と、バリヤがランプの灯を消した。
トストスとこちらへ歩いてくる音が聞こえ、ベッドにバリヤが潜り込んできた。
「あっ……あの、バリヤさん?寝るんですか?」
「スライムは寝られない」
「じゃっじゃあなんで」
「貴様が寝られないと困るだろう」
「いや、寝れます!寝れますよ!!明るくても!!」
二人では狭いからか、バリヤが巡を包み込むようにして抱きしめる。
「いいから寝ろ」
目を閉じるバリヤに、本当にスライムは寝ないのだろうか……。と心配になりながらも巡も目を閉じる。
固い腕にもたれかかって寝ると低反発枕のようで気持ちがよかった。
腕だけでなく、胸板も、頭に当たるごつごつとした顎の骨格も固くて、何から何まで筋肉でできているバリヤの身体に少し緊張しながら身を委ねた。
委ねたのだが。
プニプニと透明なスライムが巡の身体を包み込んだ。
硬かった筋肉が一瞬にして沈み込む軟体へと変わっていく。
「バリヤさん!?スライムになってます!!」
「この方が寝心地が良いかと思って」
「お茶目!!って馬鹿!!これじゃザックさんみたいにスライムに溺れちゃいます!!」
「そうか。悪かった」
魔法がかかる感覚があり、シュルルとバリヤが元の体躯に戻った。
「実を言うと寝るふりをすることはできるがその間、俺は暇だ」
「だから遊んだんですね!?俺で!?」
「……」
「明るくても俺、寝られますから。バリヤさんは本でも読んでいてください」
言う巡に、バリヤは横に首を振った。
「いや、このままで良い」
「でも……」
「メグルが寝ているのを見ているだけでいい」
「……それも人間の生態の知識から出た気持ちですか?」
「ああ」
巡はなんと言ったら良いのかわからなかった。
2度も助けてもらっている。命の恩人だ。
命の恩人に快感を分かち合いたいと言われ、受け入れるために告白して、ベッドの中では一緒に眠って。
これが好きということなのだろうか。
バリヤがスライムでなければ、これが愛されているということだと勘違いしてしまっていただろう。
いや、バリヤがスライムだからこそ、これが愛でないのではないかということに胸が痛む。
少なくとも目の前のスライムがとる行動の一つ一つは、もし人間であったなら、巡のことを好きなのだと十分に感じさせるようなものであった。
これが愛でなければなんなのだ。
愛されている錯覚に陥るからこそ、これが作り物の愛でなければ良いのにと願う。
そんなことを考えているうちに、巡は眠気に襲われて、バリヤの胸の中で眠りについた。
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