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第39話 勝敗
「くそ……合体している暇がない」
バリヤは剣を持っている方の身体で剣術と手持無沙汰な方の身体で魔法、二手に別れて攻撃することにした。
アノマはバリヤが二手に別れたせいでピンチに陥っていた。
一人相手なら隙もできるが2対1では同時に攻撃されるとなす術がない。
というか、斬っても刺してもスライムだからと痛手を負わないのであれば、アノマだけが消耗していきバリヤは魔力でずっと元気に動き回れることになる。
しかも見たところ、バリヤは人間に変身している割に魔力生命体だからか息の一つも上がっていない。
どう考えてもアノマに不利だった。
通常のスライム相手なら、平民でも魔力で消し去ることで退治できるのだが、目の前のスライムはあまりにも魔力量が高すぎて魔力で消し飛ばすということができないのだ。
大方アノマの全魔力を使って二人のうちどちらかを消し飛ばせるだろう、くらいのものだった。
土魔法で生き埋めにできないかと土砂をバリヤの上に降らせてみるものの、見事に避けられてしまう。
火魔法が今度は空気中でアノマを追跡して発生した。
バリアで無効化しながら片方のバリヤとの距離を詰めるアノマ。
バリヤとの距離を詰めたアノマの後方からもう一人のバリヤが挟み撃ちに来た。
「ハアーッ!!」
アノマは円を描くように前と後ろ両方に太刀筋を描いた。
剣を持っている方のバリヤは剣で防ぎ、魔法を使う方のバリヤはバリアを張って吹き飛ばされた。
ガインとまた刃と刃がぶつかる音がする。
斬っても刺しても所詮スライム、効かないのだから魔法で勝負するほかない。
アノマはその場を脱出し、二人両方のバリヤを竜巻の風魔法で飛ばした。
バリヤは飛ばされたままぐるぐると周り、全方向に向かって魔力の刃で切り付けた。
訓練場の全方位にバリヤの魔力の刃が切り付けられる。
野次馬たちの悲鳴が上がり、各方面でバリアが張られた。
が、竜巻が激しくなり、バリヤの魔力の刃が360度全てに更に強く及ぶようになり、会場は竜巻と魔力の刃でボロボロになった。
「魔法陣が限界だ。ミウェン、バリアを張るよ」
「はい!」
ザックがミウェンに声をかけ、バリアを張る。
アノマはバリアで魔力の刃を無効化していたものの、竜巻を作るのに使う魔力を消耗しすぎて既に息が上がっていた。
魔法を使う方のバリヤがバリアで竜巻を無効化し、もう一人の自分の魔力の刃をもバリアで防御しながらアノマを火魔法で追跡した。
散々走らされ、魔力の消耗も激しいアノマは火に捕まり騎士団のジャケットが火だるまになる。
「うわあああ!!」
竜巻は止み、剣を持ったバリヤがアノマの元へギュンと飛んだ。
火に包まれるアノマを更に剣でとどめを刺そうとするバリヤ。
「終了!!
バリヤ兵長の勝利!!
バリヤ・オノルタはその剣を治めなさい。
神官は直ちにアノマ騎士団長の救護を!!」
うおおー!!と野次馬たちから歓声が上がる。
神官たちが全身火傷を負うアノマを担架で運んでいき、一斉にキュア魔法を掛けだした。
みるみるうちにアノマの怪我が治ってゆく。
バリヤは二人でくっ付いて馴染み、再び一人へと合体した。
キョロキョロと辺りを見回すバリヤ。
巡を見つけると、まっすぐにその足でこちらへ向かってきた。
「バリヤさん」
「勝ったぞ」
グイっと顎を持ち上げられる。
約束通り勝利を手にしたバリヤは巡に深くキスをした。
「当然だね。僕のスライムだもの」
その光景ににっこりと笑みを浮かべながら、ザックが誇らしげに言った。
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