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第41話 エクストレイル・ナーコ

 バリヤの問いに、エクストレイルと呼ばれた青年はゆるく腰を折って礼をした。   「エクストレイル・ナーコと申します。ザック様とは勇者様との遠征で一緒になりました」 「神官か」 「ええ」 「エクストレイル殿」  ミウェンは顔見知りであるらしく、知った風にその名を呼んだ。   「この子は魔族の吸血種なんだ。魔族の名門貴族で、僕ほどじゃないけど魔力が高い」 「そうなんですね。よろしくお願いします」  巡の挨拶にエクストレイルは「よろしく」と微笑んだ。   「で、要件はなんだ」 「それは」  エクストレイルはバリヤの質問に答えるような素振りを見せたが、辞めたかのように掌を上に向けた。    掌には魔石が一つ握られている。    バリヤから巡が貰ったものと同じように、魔法が入った魔石のようだった。    エクストレイルが魔石の魔法を発動する。   「「「えっ」」」  一同は驚いた。    バリヤの足元に魔法陣が数個並んだ。  召喚魔法陣のようにズズズとバリヤが飲み込まれていく。   「何の真似だ、貴様」  引き込まれそうになりながらも片足を地面に引っ掛け抜け出そうとするバリヤにエクストレイルは「無駄ですよ」と呟く。    逃げ場があるかと思われた地面に魔法陣は増え、ズブズブと足場があちら側に引き込まれる。逃げ場が無くなっていく。   「バリヤさん!!」  巡はとっさにバリヤの元へ駆け寄った。  バリヤと共に巡も魔法陣へ呑み込まれていく。   「バリヤ!!」 「メグル殿!!」  ザックとミウェンの叫び声を最後に、バリヤと巡は魔法陣に完全に呑み込まれた。    エクストレイルも後を追うようにして魔法陣を展開し、魔法陣の中へ消えていった。 「どこだ、ここは」  バリヤは巡を腕の中で守りながら辺りを見渡した。    静けさと灰に満ちたがらんどうの部屋に転送されたようだった。   「また異世界に……来ちゃったんですかね??」  巡の疑問に答えたのは先程ぶりの新しい声だった。   「いいえ、異世界などではありませんよ。ここは魔界です」 「エ……エクストレイルさん!」  またしても異世界トリップしてしまったのかと危惧していた巡はその答えに少し安心する。 「貴様……」  巡を腕にすらりと剣を引き抜こうとしたバリヤに、エクストレイルが慌てたように言い訳を並べた。   「ちょ、ちょっと待ってください。何も危害を加えようというわけではないのです。こちらは僕の実家なんですよ」 「じ……実家??」  話が見えてこない。  聞き返すと、エクストレイルは己の生い立ちを話し出した。   「はい。  僕の実家は魔族の名門貴族です。僕は、魔界出身なのです。  貴族として魔王城に勤めていた両親と共にここで育ち、3年前、16の時に神官を志して人間の世界へとやってきました。  そしてここは、両親が住み込みで働いていた……魔王城です」   「魔王城!?」

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