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第52話 エンカウント
「え!?!」
ミウェンが信じられないとでも言いたげな顔で巡の背を押した。
巡は魔界の者には無断でアルストリウルスに来ていたのだった。
「か、帰りましょうメグル殿。バリヤ様のところに……」
ミウェンに押され、部屋を後にしたその時。
「メグル様!?」
「あっ」
「エクストレイルさん」
最悪なことに廊下を歩くエクストレイルとエンカウントした。
「メ、メグル様、どうしてここに!?」
「え!?あの~、バリヤさんに頼んで……」
「魔王様のご令室ともあろうお方がどこにでも簡単に出かけて良いわけないでしょう!どこの馬の骨とも知れない人間に傷付けられでもしたらどうするんですか!!魔界とこの世界とで戦争になりますよ!?」
「あの~、そこまで考えてなくて」
「何を仰ってるんですか!!とにかく、今はバリヤ様の元へお送り致しますから……」
「すみません」
今日どころかここ数日無断で外出していたのだが、バレていなかったらしい。
第三兵団の訓練場まで無事送り届けられた巡は、ミウェンと共にバリヤを待つことにした。
「とにかく、今日はなるべく早くバリヤ様に送っていただいてください」
「わ、わかりました」
「僕は神官のお勤めが午後に残っていますから、バリヤ様に絶対に頼んでくださいよ!?」
「ハ、ハイ」
エクストレイルはプンプン怒りながら去って行った。
こんなに無断外出したのがまずいことだとは知らなかった。
確かに、メグルがこの国で知らぬ間に怪我を負いでもしたら魔王であるバリヤは怒り戦争になるかもしれない。
最初にバリヤに対して人としての恩を感じ、好感を持ったのは巡の方なのに、いつの間にかバリヤの方も巡に対して好意を抱き、それを隠さなくなった。
「ミウェンさんは、午後のお勤めは良いんですか?」
「私は、メグル殿がいらっしゃいますから今日はお休みさせていただきます」
「いいんですか?」
「はい。この間にメグル殿に何かあっても事ですし、元側役ですから、気にしないでください」
「そ、そうですか。ありがとうございます」
訓練場のバリヤを眺める。
直接の指揮は副兵長のアノマが執っているようだった。
バリヤが遠くから眺めているこちらに気付き、アノマと一言二言言葉を交わしてこちらに向かってきた。
「メグル、どうした」
「バリヤ様、メグル殿を魔王城へお送りしてほしいのです」
「エクストレイルさんに外出がバレて、怒られちゃいまして」
「帰れという事か」
「ハイ。ザックさんも魔力の受け渡しとか用事があったら魔王城に来ていただくよう言っておいてもらえますか?」
「わかった。ひとまずメグルを魔王城に送ろう」
「お願いします」
バリヤが転移魔法を詠唱し、バリヤの足元に魔法陣が展開される。
巡はバリヤと手を繋いで魔法陣の中へ入った。
「ではミウェンさん、ありがとうございました。また魔王城へ来てくださいね」
「はい、メグル殿。近いうちにザック様とお伺いさせていただきますね」
ミウェンに手を振りながら魔法陣に呑み込まれていく。
「メグル、そろそろだ」
「はい、ミウェンさん、本当にありがとうございました」
「ええ、またすぐに!」
魔王城のバリヤと巡の部屋へと戻ってくる。
「メグル、先にシャワーでも浴びるか」
「あ、ハイ。バリヤさんはこれからアルストリウルスに戻られるんですか?」
「いや、アノマ殿に任せてきた。今日はメグルと共に居よう」
バリヤが巡と鼻先を合わせ、唇にちゅっとキスをした。
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