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第53話 神社
魔王城では何をするのかというと、バリヤが瘴気を操ったり、貴族だというオーク、狼男、サキュバス、たまにエクストレイルと公務をこなしているのを見るくらいしかやることがない。
外に出てみたいとは思うが、ここは魔界とあってアルストリウルスの第三兵団よりも危険な場所へ赴くことになる。
「殻潰しですか!!」
「ウワッ」
怒りながらエクストレイルが現れた。
「毎日毎日食って飲んで寝るだけ!あなたは何をしているのですか!」
「いや、だってアルストリウルスに行くのは駄目なんですよね。魔界の外は危なくて出歩けないし、そしたらやることないですよ」
それに、バリヤは魔王とアルストリウルスの第三兵団を掛け持ちしているから暇になれば国へ戻ってしまうが、巡は国からも神官の地位を剥奪され、本当にやることがないのである。
アルストリウルス語の勉強を再開することも考えたが、それには国を行き来して本を借りる必要がある。それは魔界どころか国からも許可が下りなさそうだった。
「……では、神社へ行ってみるのはどうですか?」
「じ、神社?魔界に神社があるんですか?」
驚いた。
神社なんてものは元の世界にしかないものだと思っていたし、第一魔物の巣窟である魔界に神社があるなんてどういうことだろうか。
「ありますよ。この世界では魔力が全てです。神の力も所詮は魔力の塊。人間界では教会などで神を祀っていますが、あれは人間の魔力を集めて魔力の塊を生み出し、神もどきを作り上げているにすぎません。魔界は魔力が濃いですから、魔力が溜まりやすい場所に自然と神が生まれるのです。その神が宿って生活しているのが神社です。この世界には魔界にしか神社はありません」
「へえー……でも、神社に行くまでには茨の道が待ち受けてるわけですよね?」
「いいえ。神社はいくつもありますが、その中の一つは魔王城の敷地内にあります。通いたければいつでも行けますよ」
「えっ」
まさか、身近に神社があったなんて。
神社に行って何をすればいいのかはわからないが、社の清掃やお参りがてらの散歩など、それくらいはすることがあるだろう。
道端に祀られているようなこぢんまりとしたものなのか、正月に参列するような立派な神社なのかはわからないが、何ができるかは行ってみてから考えればいい。
エクストレイルに地図を描いてもらい、広い魔王城の敷地内をうろうろする。
いかんせん地図が雑なのと、エクストレイルの絵はお世辞にも上手いと言えるものではなかったため、わかりにくい。
しかも魔王城の敷地、無駄に広すぎるのである。
「ここを曲がって……さらに曲がったら道があって……池のようなものが……」
口頭でしか会話ができない巡は、文字が書かれていてもなんなのかわからない。
おそらく池には池と書かれていて、建物の絵にもいちいち文字で何か記してあるが、巡には読めないので目印にならない。
池の向こうに、砂利が敷き詰められた庭を見つけた。
道を示すように鳥居が列になって佇んでいる。
竜の口から水が流れ出て、手を洗うように持ち手つきの小さな桶が並んでいる。
そこを通り抜けると立派な神社がどんと居を構えていた。
試しに脇にある小さな建物の戸を開けてみると、不用心にも鍵がかかっていない。
すぐ側に竹箒や雑巾やバケツが置いてある。
「いっちょ、やってみるか」
竹箒を手に神社内を歩き出した時だった。
「ん~~?我の寝床を荒らすのは誰じゃ?」
本殿の扉がギギギーッと開き、中に大きな影が現れた。
この神社、人が住んでいたのか。
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