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第54話 友達

「えっ……あっ」  咄嗟のことに身がすくむ。  バリヤを呼ぶかと、懐中魔法陣を手に取った時。 「そなたは誰じゃ。誰の許可を得てここに居る」  本殿の中に身を潜めていたはずの誰かが背後にふっと移動した。  緊張して上手く魔力が動かせない。  これではバリヤを呼べない。 「怖がるな、人の子よ。我は神だ」 「えええっ!?」  長くて白い髪。まつ毛も白い。赤い瞳。この世界に来てから見た誰よりも身体が大きい。人ではない相手は巡の周りをふよふよと浮いていた。 「本来ならば我の神域に侵入した者は枯れるまで魔力を喰ろうてやるのだが……お前は、魔力が変だな。これは喰えない」  枯れるまでとは、死ぬまでということだろう。この世界では魔力の無いものは死んでいるのと同じだと、ザックが言っていた。  巡の魔力が変なのは、異世界で身に着いた魔力だからだろう。  死ぬときに、次は死なないように本能が身に着けたある程度の魔力。この世界の魔力ではない。だからザックの魔力の受け皿にもなれた。  最初にこの世界で見てもらったザックの鑑定結果の認識では巡の魔力に異変は無かったが、神の認識では巡の魔力は変、らしい。 「かっ、神様……」 「そうじゃ。我は魔界に住む数多の神のうちの一人。魔王城の魔力の塊そのものだ」  というか、巡を神社へ行くよう勧めたエクストレイルは神が魔力を喰らう危険人物であることを知っていたのだろうか。知っていたなら巡を殺すために行かせたも同然である。  巡の魔力が異世界のものであるせいで、喰われずに済んだが。 「お前、なぜこんな魔力を宿している?この世のものではありえない。異端にもほどがある」 「俺は……異世界から来たんです」 「異世界?なぜそんな者がここに居る」 「俺は、魔王の伴侶なので」 「……!?」  神も驚くものなのだろうか。  いささか信じられないという表情で神はこちらを見つめていたが、良いことを思いついたとでも言いたげに巡に手を差し出した。 「では、我と友達になろう。神は魔力の大きさで格が決まるゆえ、魔力を持つものが近づけば大抵は喰うことになるが、お前は喰えない。我の隣に居ても唯一喰わずに済む人間だろう」 「は、はぁ……。この世界の人間は、他人の魔力を喰らうなんてしたら拒否反応が出ると聞いたんですが」 「神にそんなものはない。これから毎日神社に来い。我も長い間誰も近寄らぬ社の中で暇しておったのだ。して、その箒は何に使うつもりじゃ」 「それは……掃除をしようと……」 「そうか。我の為に勤めるがよい」  それは友達と呼べるものか?  片方が片方に尽くす関係を友達というかは定かではないが、この世界に来て初めての友達である。  バリヤは伴侶として。ザックは魔力の受け皿として。ミウェンは元側役として。魔王城の貴族たちは、一応従者として。それぞれの関係に形はあれど、友達は初めての関係だった。

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