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第56話 食べて

「献上物か?スライム程度では魔力の足しにはならんが……」 「違います。魔王様を食べないでください。そしてこの方が、ザックさんです」 「名前など知ってもしょうがない。エルフなどと知り合いにはならない」 「いえ、神様。彼の魔力が見えますか」  ザックは神によく見えるように、一歩前に出た。 「……これはこれは。溢れんばかりの魔力だな。我が喰ろうてやりたいくらいじゃ」  目を細めて舌なめずりをする神に向かって、巡は頷いた。 「はい。彼の魔力を、食べて欲しいんです」 「……何?」 「ザックさんの魔力は、魔力暴走を起こしそうなくらい魔力が高いんです。だから定期的に、誰かに分け与えないといけない。ここにいる魔王様がその役割を担っていますが、彼だけでは足りない。神様に、食べても良い分だけ、魔力を食べて欲しいのです」 「僕は魔導士として高い魔力を保有していなければならないから、勿論受け渡す魔力量は僕が調節するよ。でも、神様っていうのは本当に魔力を食べるのかい?」  ザックの疑問に神が一瞬、嫌そうな顔をした。 「当然、喰うが。お前のような、こんなに上質な魔力を沢山得られるのであれば神としての格が上がることは保証されるようなものじゃ。お前の魔力は強いし多い……。そんな魔力を我が喰うとなれば、何をするのかお前は分かっているのか」 「性交渉かい?」 「……わかっとるのか」  魔力の受け渡しに必要な手順は、人間でも神でも変わらないらしい。 「スライム程度なら口から喰えるが……そのエルフほどだと話は別だ。そのようにしないとエルフの身が持たないだろう」  性交渉のように身体で交わる必要があるのは、短時間で安全に大量の魔力を受け渡すためだ。もちろんハグするだけでも魔力は渡せるのかわからないが、バリヤ以外とそのような行為をしたことのない巡にはそれはどうなのかわからなかった。 「エルフは人間と違ってかなり頑丈だよ」  ザックがそう言って自慢げにする。実際、バリヤとの魔力の受け渡しはスライムの中で窒息しそうになりながらやっているのだ。  しかし神は眉根を寄せた。 「我は神だぞ。エルフごとき、簡単に壊せる」 「じゃあしょうがないね。やるしかない」 「……待て。神が住まう本殿でやることではない」  待ったをかける神に、ザックは首をひねった。 「魔王城なら部屋を貸してもらえるかもしれないけど、そうするかい?」  魔王城には、住み込みの従者たちの他は巡とバリヤ以外誰も住んでいない。  空き部屋なんて手に余るほどあった。  しかし神は思うところがあるのか、渋っている。  暫く考えたのち、心を決めたように神はザックの首根っこを掴んだ。 「……いや、仕方がない。本殿に来るが良い。お前の上質な魔力、我が喰ろうてやろう」 「えっ」  神はザックを引きずり、戸を開けっ放しの本殿へ向かう。  誰も手も触れていないのに、ギギギーッと音を立てて戸が閉まった。

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