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第58話 謎の部屋
「メグル、もう寝るのか」
バリヤはアルストリウルスから戻ってきたところだった。
時刻は夜。
この世界に来てから、正確な時間は分からない。
アルストリウルスに居た頃は鐘の音が朝、昼、晩と知らせてくれていたので目安になったが、魔王城に住みだしてからは勘で生きている。朝になれば朝日が差し込むし、晩になればアルストリウルスの晩の鐘を聞いたバリヤが戻ってくる。夜は長いので、バリヤの帰宅が良い目印になっていた。
「いえ、まだ……あの」
「どうした」
巡はバリヤの手を握り、ある一室へと移動した。
そこは昼間暇な巡が神社から連れてきた神と一緒に見つけた部屋であった。
「これは……」
バリヤが驚いたように息を漏らす。
その部屋にはいくつかの石台があり、それぞれの表面には魔法陣が描かれていた。
「アルストリウルス語の魔法陣ではない。なんだこれは」
しかしその魔法陣は、この世界の魔法陣ではなかったのだ。
バリヤが試しに魔法陣に魔力を込めてみる。
が、魔法が発動しない。
「これは、魔法ではないのか?」
「いえ、バリヤさん……」
今度は巡が魔力を込める。
すると、ヌルンと上半身だけの魔人が魔法陣から現れた。
「魔人か?」
「さようでございます」
「いったいなぜ、巡が……」
バリヤの疑問に答えるようにして、突然第三者の声が聞こえた。
「見つかってしまいましたか」
「ウワッ」
エクストレイルがギィーッと音を立ててドアから入ってきた。
「夜遅くに二人して何かしていると見に来てみれば……ここに来られるとは」
「これはなんだ」
端的なバリヤの質問にエクストレイルは笑う。
「簡単な話ですよ。今見たでしょう。メグル様の魔力に反応して魔法陣は発動した。この部屋にある魔法陣は全部、異世界人間の魔力でなければ発動できないようになっているのです」
「それはなぜだ」
「言い伝えによると……何代か前の魔王様が、異世界人間だったようです。ついこの間アルストリウルスが勇者を召喚したように、魔界でも魔王の器となる者を召喚で補った時代があったのです。異世界から来た魔王様は、異世界の魔法をこの部屋にお残しになられた。それを代々僕たちが守っているというわけです」
「……メグルの世界には魔法は無いのだろう?」
「はい。ありません」
「しかし、異世界人間ですから。異世界人間の持つ魔力であれば発動できるのではないでしょうか」
ガバガバである。
とはいえ、巡に魔力が身に付いたのはおそらく以前のトリップ先で死んだときである。前の世界に魔法なんかがあったのかどうかは定かではないが、何より巡が魔法で召喚されていたのだし、神子や天候を操る聖女がいるくらいだから魔法も存在するだろう。
以前の世界と同じ世界から何代か前の魔王だという異世界人間が来たのなら、同じ世界の魔力を使うことになるので巡の魔力が通用するのも頷ける。
すべて憶測だが、そのように考えるのが妥当だった。
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