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第59話 アデュー!!
「エクストレイルさんはその異世界人間の魔王様に会ったことはあるんですか?」
「あるわけないでしょう。僕まだ19歳ですよ。この世界に魔王様がいなくて久しいというのに」
そうだった。
バリヤの前はこの世界には魔王が長いこと居なかったのだ。
「して、ご主人様」
魔人が巡に向かって礼をした。
「私は対価を得て願いを叶える魔人でございます。貴方様の大切な物一つと引き換えに願いを叶えて御覧にいれましょう」
「えっ、対価がいるんですか」
「ええ、対価は願いの価値に伴って大きくなります。例えば死んでも叶えたい願いであれば、愛する者からの愛情を生涯失います」
「こ、怖っ」
そこまでして叶えたい願いなど、巡にはない。
一瞬、元の世界に生きて返してくれ、という願いが頭の隅を掠めたが、バリヤがいて、魔王城でぬくぬくと暮らしている現状を捨ててまで叶えたい願いでもなかった。
「願いは、何でもいいのか」
バリヤが聞く。
「ご主人様以外からの願いは受け入れかねます」
この場合のご主人様とは、巡のことだろう。
「しかし代理で願いを叶えるのであれば、可能ですよ」
「いや、いい」
バリヤはすぐに引いた。
「あのう、特に願いが無いんですが、魔人さんはずっとこのままなんですか?」
魔法陣の上に姿を現したままなのかということだ。
魔人は不思議そうな顔をしてから、人差し指を立て、説明した。
「魔法陣に流れている魔力が無くなれば、当然私も姿を現すことはできません。魔力を注ぐのをやめていただければ、私は魔法陣の中へ帰りますよ」
「そ、そうですか。では、ありがとうございました」
巡は集中していた魔力を切らした。
魔人が「アデュー!!」と言いながら魔法陣の中へ吸い込まれていく。
「バリヤさん、一体何を願おうとしていたんですか?」
巡はバリヤが魔人に言いかけた願いが気になって、聞いてみた。
「メグルが、もっと俺のことを好きになるように」
「えっ」
「俺達の間でもっと愛が育まれるように」
「そっ……そんな」
巡は照れて、顔を赤くした。
何を考えているかわからないこのスライムが、そんなに可愛い願望を持っていたとは思わなかった。
その場合対価は何になるのか気になったが、危険だからこそバリヤも魔人には頼まなかったのだろう。
「バカップルですか!」
「ウワッ」
エクストレイルが半目で二人を見ていた。
「横の石台は……」
今度は3つある石台の左端にあった魔人の魔法陣の隣、真ん中の魔法陣に移動する。
巡が魔力を流し込むが、何も起きない。
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