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第61話 感謝

「まあいいや。で、何?俺が死んで6年っていうのは……何かの冗談?俺今、生きてるけど」 「これは魔法です。時空を遡って死者に会うことができる魔法であなたを呼び出しています。当然、まだ生きているアスラ殿を呼び出しておりますので、あなたはまだ生きています」 「生きてるのか死んでるのかややこしいな。で、俺ってばなんで死んじゃったの?」 「魔獣討伐任務で複数の魔獣に囲まれて逃げ場がなくなり亡くなられました」 「それは今の俺からしたらこれから起こることだと思うんだけど……その危機を回避して俺が逃げ延びたら6年後も俺は生きていられるわけ?」 「いいえ。あなたは元から迂闊で注意力が散漫な所があるので魔獣に囲まれなくてもどうせいずれ死んでいたでしょう」 「何お前。そんな風に俺のこと見てたんかい。だったら助けろや」  ツッコむアスラにバリヤはじっと黙っている。 「……助けられなくて、すみません。当時の俺は、弱すぎれば死ぬのは当然だと思っていたので」 「仮にも俺兵長だけどね!弱すぎるとか言うなよ!」 「今日呼び出したのは、あなたに感謝を伝えたかったからです」 「感謝?まあ面倒は見てやったわな」 「あなたが俺に絡んでは人間とのコミュニケーションを押し付けてきたおかげで俺は人間の心情や立ち振る舞いを学びだしました。そのおかげで、今の俺がある。今の俺は人間らしい感情も持っているし、人を好きになるということも覚えた。あなたのおかげです」 「……まぁ、上下関係の厳しい騎士団でコミュニケーションに粗があれば生きにくいに決まってる。兵長として、人間に変身できるようになったばっかのお前をほっとけなかっただけだよ。でさあ、俺が死んだ後、誰が兵長になったの?」 「俺です」 「ハ?」 「俺です」 「ハァーン!!死ななきゃよかった!感謝述べられてどんだけお前が俺のこと思ってんのかって、感動してたらお前が一番美味しい思いしてんのかい!」 「6年間ずっと兵長を務めて、今も兵長のままです」 「しかも、任期ながっ!第三兵団で6年も兵長できる奴なんて聞いたことねーよ!バケモンじゃん!」 「スライムなので」  切られても分裂してノーダメージのスライムである。  魔力で消し飛ばされれば死んでしまうが、ザックの魔力をため込んでいるバリヤが消し飛ばされる可能性はゼロに等しい。 「でもまあ、元気にやってるならよかったよ。俺は……死にたくねーけど、お前が言った通りになるんなら、そうなんだろうな。それまでに悔いのないように生きるよ。ありがとな」 「はい。アスラ殿にまた会えて、良かった。俺にとっての第三兵団兵長は、ずっとアスラ殿ですから」 「嬉しいこと言ってくれるね。死ぬ前に未来のお前と出会えて、俺も良かった。色々聞きたいことはあるけど、まあいいや。じゃあな。」  巡は魔力を止めた。  スウッとアスラが消えていく。

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