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第66話 瘴気

「よかったらその魔法陣、それぞれ見せてくれないかな。ぜひ研究させてもらいたいんだけど」 「って、ザック様。今日は雑談をしに来たわけではないでしょう」  ミウェンがザックを制止した。 「ああ、そうだったや。神の生態研究だよね」 「それも違います!」 「なんだったっけ?」 「魔界の瘴気のせいでバリヤ様の地位が危ぶまれているということです!」 「ああ、そうだった。そんな話もあったね」  ミウェンが何やら聞き捨てならない新情報を暴露した。  ザックは完全に忘れていたようで、興味すらなさそうな感じである。 「それがさ、僕がパーティに呼ばれて瘴気の浄化に行ったじゃない。その時多分、瘴気を余分に浄化しすぎたんだよね。それで、浄化した分のエリアは国としては浄化されたままだと思っていたら、最近浄化したエリアに瘴気が侵食しだしたもんで、上が怒ってるんだよね」 「何」  ザックとバリヤは話し合った。  そこからの情報によると、勇者は持ち前の能力によって瘴気を浄化しすぎたらしい。本来瘴気に覆われているエリアまで浄化してしまったので、バリヤが魔王の能力でそのエリアを瘴気で満たしていたら、国はせっかく浄化したエリアを瘴気で覆うなんて、魔王はどういうつもりなのか、人間界に害を及ぼすつもりではないのかとお怒りになっているらしい。 「そう言われても、魔界と人間界のバランスを保つための魔王だ。俺はバランスの取れる範囲まで瘴気で満たす必要がある。魔界の損失になるからだ」 「僕らは、それをわかってるから良いんだけどね。国は、浄化したエリアは人間界のものだと思っているから」 「何か手を打たないと、バリヤ様が悪者になって国から攻撃をくらうことになります」  人間界との戦争になりかねないということである。 「まず、浄化したエリアは浄化されたままだという固定概念を覆さなきゃならないね。でも、そこは魔界のエリアなんで返してくださいなんて言ったら、領土の取り合いになっちゃうよ」 「まさしく戦争だな」  バリヤが不謹慎なことをしれっと言う。 「ザック様はバリヤ様の持ち主ですから、誤解が解けなければザック様まで国を追放されてしまうかもしれません」 「そんなっ……」  ミウェンの一言に、巡は言葉を失う。 「僕もそうなるとちょっと困るんだよね。研究の成果を国に捧げて生きてきたのに、今更その功績を全部無かったことにされると辛いものがある。研究自体は国を追い出されて魔界に住んでもできるけど、積み上げてきたもの全部、国に置いてくるわけだから。今の地位を失うのも惜しいし……」  一応国のトップ魔導士だから、と言うザック。 「そうならないように、俺がどうにかする」 「何か策があるのかい、バリヤ」 「いや、無い」  バリヤは即答する。 「じゃあ、こういうのはどうだい。  バリヤは瘴気で満たすべきところまで満たす。その代わり、僕が国に神を連れて行く。  人間界には多くの教会があるけど、実際に神がいる国は人間界には存在しない。バリヤに領土を渡す代わりに、アルストリウルスは神を得る。  アレは魔王城の魔力の塊だから人間界に住むことはできないだろうけど、定期的に連れて行くだけならできるんじゃないかな」 「それって、ザックさんが神の研究をしたいだけなんじゃ……」 「まあそうともいう。でも、僕なら神を連れて行くことはできると思うんだよね」 「えっ。なんでですか?」  巡の疑問にザックは当然のように答えた。 「あの神様、僕の魔力のおかげで相当レベルアップしてたからね。元々魔力の強い神様だったかもしれないけど、今じゃ僕の魔力なしじゃもうやっていけないんじゃないかな」  それだけザックの魔力は多く、濃く、強いということだろう。  他の神でもザックの魔力を喰うことはできるかもしれないが、安全な魔王城の敷地内に住んでいるのはあの神だけだ。

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