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第68話 城ごと燃やすか
ザックとバリヤと神はアルストリウルス国の貴族たちと面会をしていた。
「何を言っとるんだ君たちは!そもそも魔界が人間界への侵略を辞めればよい話ではないか!それに何、この男が神だと!?神に会いたければ我々は教会へ行く。神を名乗る胡散臭い変人などお呼びではない。大体魔王直々にここまで訪問しに来て何が神だ」
「魔界と人間界のバランスを取るために瘴気の浸食は必要不可欠です。人間界を侵略しているわけではありません」
「神様は本物だよ。協会になんているわけないじゃないか。この条件を飲めばアルストリウルスは人間界で唯一神を持つ国になれるんだよ」
「ええい、神がいる国になったからなんだというのだ。大した利益もないのに人間界の領土を魔界に明け渡してたまるか!」
話し合いは平行線のまま、全くらちが明かない。
バリヤは同じようなことを機械のように繰り返すだけだし、ザックは相手を逆なでするようなことばかりを言う。
「……我は神だ。協会なんぞにある魔力の塊と一緒にするな」
「だ、だから神なのであれば神であるという証拠を見せろと言っている!神のいる国になどなっても利益が無ければ意味がない」
神は神で無茶を強いられている。
「……神様、パッと人間の望みを叶えたりできないのかい?」
「神とは人の願いを叶えるものではない」
「じゃあ他に何か、天候を操るとか……」
「雨を降らすくらいならできるが」
「それでいいよ。やってみてよ」
ザックは貴族たちに向き直り、体制を整えた。
「今から神様が恵みの雨を降らしてくれるってさ。神がいればこの国の作物は実り、飢餓とは無縁の生活を送れるってわけさ」
「な、なんだと。それは本当か」
途端に空は雲に覆われ、ぽつり、ぽつりと雨粒が窓を叩きだした。
「こ、これは……」
「ほらね、だから言ったじゃないか。彼は神様なんだよ」
「しかし、たまたまではないのか。偶然雨が降り出しただけでは……」
それでも神を認めない貴族たちに、神は痺れを切らしたのか、城を崩壊させようと揺らしだした。
雨の中ゴゴゴゴ……ズズンと音を立てて城は地面に沈んでいく。
「なんだ、地震か!」
「避難しろ!」
「地震ではない」
動揺する貴族たちを前に、神だけが冷静にその場を浮遊している。
「我にかかれば城ごとき崩壊させることも容易だ。いっそこのアホみたいな城ごと燃やすか」
「待て、それはやめてくれ!」
「だったら我らの要求を呑め。城が完全に崩れ去る前にな」
「わかった、わかったから!」
ザックとバリヤはといえば、安全な場所に移動すべく転移魔法を展開している。
神はため息をついて二人の首根っこを掴み、貴族たちの前に突き出した。
城は揺れるのをやめ、貴族たちは机の下から這い出てきた。
「魔王に誓うのだ。瘴気の浸食に文句を付けたりしないと」
「ハ……ハイ」
「その代わり、僕が定期的に国に神様を連れてきてあげるからね」
「わかった、そのようにしてくれ」
へこへこと頭を下げる貴族たち。
貴族たちは納得のいっていない表情でありながらも神によって何をされるかわからない恐怖と神によって与えられる恩恵を交互に思い浮かべながら天秤にかけた。
神がいて困ることはないのだ。
今命乞いをする以外に選択肢などなかった。
「それで神様。この雨はいつ降りやむの?」
「雨を降らすことはできても止める術は持たぬ」
「ああ、そう……」
「これで片が付いたとメグルにも報告しよう。魔界の貴族たちにもそのように報告しなければならない」
「そうだね。行っておいで、バリヤ」
「我もそろそろ社へ帰る。エルフはこの国に住んでいるのだろう。崩れた城の修繕にでも励め」
「僕ってもしかして、損な役回り?」
ザックの言葉を無視して、二人は魔界へ帰って行った。
その後貴族たちに捕まったザックは騒動の責任を取らされ、一人で城の修繕をすることとなった。
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