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第69話 担保
交換条件を出したはいいが、実際に交渉を認めさせたのは条件に関係なく神の脅しだった。
国はこれを一旦は認めたものの、どうしても納得がいかなかったのか、国王直々にまた呼び出される羽目になってしまった。
そしてなぜか今回は巡も国に呼ばれていた。
ザック、バリヤ、神、巡が国王の御前に並ぶ。
「バリヤ・オノルタ……いや、魔王よ。我が国は国の総力と勇者の力を使い、魔王と戦う道を選ぶことにした」
勇者であれば神の荒行やバリヤの強さにも匹敵するだろうという見込みから立てた算段だった。
なにより、魔界にはアルストリウルスと違って騎士団のようなものはない。数で押せば当然、人間界の方に分があるし、勇者はただでさえ必要以上に瘴気を浄化してしまうほどの魔力の持ち主なのだ。
ザックほどではないが、勇者の魔力は勇者たりうるもので、その強さを裏付けるものである。
「国王様……神様だけでも十分なのに、魔界の領地まで欲するのは強欲に値するよ」
ザックがいつも通りののほほんとした口調で国王に忠告した。
「我一人では魔界の領土少しとも釣り合わんか。人間の考えはどうなっている」
神も不服に思ったのか、ザックと同じように国王を責める。
「やめろ。どうせ国王の意志でなくても貴族たちの間で決定したことを国王の口から俺たちに伝えているだけだ」
静かにバリヤが二人を制止した。
国王はそんなバリヤの意図を汲んだのか、それともまた言わされているだけなのか、4人に向けて話を続けた。
「魔王は、魔界の長として勇者と戦うか、人間界に対して降参を示し、以降人間界の為に魔界を動かすと誓うか、どちらかを選択せよ」
「なッ……」
「ほざくな」
ザックと神が反発する。
当然、バリヤもこの選択はどちらも選べない。
勇者と戦うといっても国は騎士団を動かすと言っている。総力戦では敵わないし、降参して人間界の為に魔界を使えという話も到底受け入れられるものではない。
「魔王として、私はどちらの選択にも応じられません」
バリヤが国王にきっぱりと言い放つ。
当初魔界の瘴気を浄化するために呼び出した勇者が、こんなところで障害になるとは。
勇者だけなら、ザックと神が魔界の味方をすれば勝てる相手だ。ただ瘴気を浄化する能力が他より勝っているだけともとれるからだ。
それが、勇者がいることで国の騎士団全部を動かす大義名分になってしまうのがまずい。そもそも勇者は今、騎士団の団長なのだ。
「それでは」
国王は何か次の提案をするようだった。
「魔王バリヤ・オノルタの伴侶である異世界人間を担保としてアルストリウルスに寄越せ。そうすれば我が国と戦うことも、魔界と人間界の領土について言及することもなく、魔王が魔王としての務めを果たすことに賛成しよう」
巡は、これのせいで自分は呼ばれたのか、と一瞬驚いた。
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