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第70話 脅し

 おそらくだが、これは前回ザックたちと対峙した貴族たちが決めたことだろう。  無理難題を押し付けて、こちらの分が悪くなったら巡を捕虜に渡せと提案する。  ザックたちの要求を呑んで魔界の瘴気については言及しない代わりに、魔王が人間界に楯突かないと約束できる材料が欲しい。それがバリヤの伴侶である巡だということだ。 「それはできません」  バリヤが即答する。 「えッ」  それに慌てたのは巡である。 「バリヤさん!この要求呑まなきゃ戦争になっちゃうんでしょう!?俺一人引き渡すぐらいなら別に良いんじゃ……」 「メグルは俺のものだ。担保にはしないし引き渡した後どんな扱いを受けるかもわからない場所にメグルはやれない」  一瞬だった。  巡の隣にいたはずのバリヤが国王の喉元に剣を振りかざしていた。  国王に謁見できるとはいえ結構な距離がある。  一瞬でその間合いを詰めて剣を抜いていた。 「どの要求もこちらからは応じられません。戦争をする前に国王様が死にますがよろしいですか」 「なッ……あっ……」  国王が恐怖に呻く。 「バリヤ・オノルタ!これは反逆行為だぞ!第三兵団兵長の座を失っても良いのか!」 「今すぐにその剣を下ろせ!」  護衛達が剣を抜いてバリヤに向ける。  神がハッと笑ってパチンと指を鳴らした。  護衛達の剣が一瞬で鉄くずになってぼろぼろと床に落ちていく。 「なっ、なんだ。何をした!」 「剣が……!」  動揺する護衛達は、剣から拳に切り替えた。 「こうなったら直接魔力でやるまでだ」 「覚悟しろ、バリヤ・オノルタ!」 「僕がいるのに魔力で敵うわけないだろう?」  ザックが魔法陣をいくつも展開する。  飛んできた魔力の刃をバリア魔法で無効化し、攻撃魔法を四方八方に繰り出す。 「異世界人間。お前はこちらにいろ」  神が巡を安全な場所へ誘導する。  そして片手を掲げて、「ハアッ」と周囲を一喝した。  その一声で護衛達は吹き飛び、壁にドッと叩きつけられた。 「カハッ……なんだこの力は……」 「お前らは神を舐めすぎだ」  神は吹っ飛んだ護衛達を見て満足げに笑う。 「どうしますか、国王陛下。貴族たちのくだらぬ言い分と、ご自身の命。どちらを選ぶのもあなた次第です」  バリヤが国王を脅す。

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