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第71話 どうも、勇者です

「国と魔界との争いにメグルを利用しようとしたことは許しません。それでもあなたの命は一つしかない。賢明なご判断を」 「……今受け入れても……政権争いで命を狙われるのと変わらぬ!死ぬのが早いか遅いか、それだけの差でしかない」  この国にも政権争いなどあったのか。  そう言われてみれば国王は一番命を狙われやすいポジションかもしれない。  国王に言うことを聞かせている貴族たちは、自分では何もできないくせに国王がここで折れたらここぞとばかりに糾弾する者も出てくるだろう。  国王にとっては、それらとバリヤの脅しとでは差がないということだろう。 「あの~。国王様可哀そうだし、放してやってくれないかな」  そこに、この状況には似つかわしくない軽い声が響いた。 「貴様は……」 「どうも、勇者です」  勇者がそこに居た。 「俺、国に言われても戦争なんかする気ないし。騎士団団長として、国の命令でも戦争の為に騎士団を動かしたりしないって約束するよ」 「……それは本当か?」  バリヤの質問に、「本当、本当」と軽く答える勇者。 「本当は騎士団なんかやってないで元の世界に返して欲しいけど、それは無理だっつーからこの国で俺にできることをやるよ。この世界の魔王って、そんな悪いもんでもないんだろ?」 「……ああ。恩に着る。国王様、ご無礼をお許しください。第三兵団兵長の座は下ろしていただいて構いません」  バリヤが国王に向けていた刃を下ろし、鞘にしまう。 「……戦争か、降伏か、捕虜を設けるしかなかったが、勇者がそういうのなら致し方ない。戦争にはできぬし、我々も魔界の条件を呑もう」  国王は命が助かったことにほっと息をつきながら、勇者のおかげで魔界の言い分が通ったことに胸を撫でおろした。  魔界の条件を呑むだけで、人間界は平和に暮らせるのだ。  それならそんな条件、さっさとのんでしまった方が良い。国王はそういう考えの人間だった。  魔界を敵に回して魔王のスライムだけが相手ならいざ知らず、この世界で一番の魔力の持ち主で魔導士であるザックや、どこからやってきたかもわからない神までが敵になるなんて、国王からすれば恐ろしいことだった。  バリヤは国王への反逆罪で第三兵団の兵長を辞めることになった。副兵長のアノマが後任を継ぐらしい。

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