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第74話 祝福
魔王城のドラグーンがいる大広間でやるので結婚式場のような装飾や教会のような祝福を現す雰囲気も期待できないが、料理長たちは腕を振るってくれるというし、背広はアルストリウルスにバリヤと巡で出かけたときに、バリヤが見繕ってくれた。神父を呼ぶわけでもないので言ってみれば小規模な食事会のようなものだが、それでも結婚式をやれるなら巡はやってみたかった。
どうやらザックは触手に捕まっているようで間に合うかわからないが、神がいれば何とかなるだろうと適当に考えておく。
「魔王様。メグル様」
エクストレイルが現れた。
「僕はミウェン殿を迎えにアルストリウルスに行ってきます」
「ああ。悪いな」
エクストレイルが魔法の入った石で転移魔法を展開してアルストリウルスへ出かけていく。
「魔王様!もうすぐですね~。結婚式の食事の用意を始めてもよろしいでしょうか?」
魔界の貴族、サキュバスのエリーンが入り口をコンコンとノックして顔を見せる。
「ああ。進めておけ」
「かしこまりました」
エリーンが扉を閉める。
「メグル。俺達もそろそろ着替えるぞ」
「はい。バリヤさん」
パリッとアイロンをかけられたシャツに腕を通す。
ネクタイを締め、ジャケットとスラックスも着込んで、革靴も履く。
エクストレイルがミウェンを携えてアルストリウルスから戻ってきた。
「メグル殿!」
「ミウェンさん!」
「似合っていますよ。結婚式に招待してくださるなんて……嬉しいです!」
「当然です。この世界に来てからミウェンさんにはお世話になりっぱなしでしたから」
「ザック様も、魔界にいらっしゃるんですよね。ザック様はどちらに?」
「ええと……」
触手に捕まっています。とは言いにくい。
「ザックはそのうち来るだろう」
バリヤが適当に返事する。
「そろそろ式場の準備ができそうですよ」
エクストレイルが巡たちを促す。
「では、行きましょうか」
「はい」
「ああ」
魔界の貴族、ドラゴンのドラグーンは、大広間の半分の体積を覆っていた。
ドラグーンの前には何を焼いたのか得体のしれないドラグーンの半分よりちょっと小さいサイズの七面鳥のようなものがものすごく大きな皿に盛りつけられていた。
「魔王様」
魔界の貴族、オークのカルタスと狼男のグランがエリーンと一緒にテーブルの上の盛り付けられた食事にはまだ手を付けずに、酒を飲んでいる。
「魔王様の結婚式なんて……めでてぇ限りです」
「こんな瞬間に立ち会える俺達は魔界の貴族たちの中でも一握りの幸せもんですよ」
「ああ」
バリヤが頷く。
「エクストレイル!あんたも飲めば?」
エリーンの勧誘にエクストレイルは「僕まだ19歳なんで」とバッサリ斬り返す。
この世界でも飲酒って20歳からなんだ……と巡は察した。元の世界と価値観の近い世界で良かったとも思う。
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